第6話 活躍したそうです

 初代サンタクロースは、4世紀にローマ帝国リュキア属州のミラで大主教をつとめた聖人ニコラウス。

 奇しくも転生した僕と同じ名前だ。


 彼は貧しい人々への施しと、数々の奇跡を起こしたことでも知られている。

 中には眉唾ものの逸話だと言う者もいるが、その血筋に連なる者はそれが全て事実であることを知っていた。

 彼は実際に数々もの神の奇跡を行使し、子孫には他者にバレぬようそのやり方が伝わっていた。


 神の奇跡を行使できることを明らかにしない理由は、かつて祖父が言ったとおり人の醜さによるものだった。

 かつて、一族のひとりが神の奇跡を行使できることを知られ、とある軍の侵略行為に荷担させられたことがあったという。

 その軍の名は【大元】

 かつて中央アジアから東ヨーロッパまでの広大な版図を誇ったモンゴルの帝国である。


 このように、僕らが知る神の奇跡は軍事転用することも可能なくらい強力無比なものであった。


 だけど僕は、その奇跡を行使することを決めた。

 いざとなれば……。


「どこかに逃げちゃえばいいとか思ってますね?」

「えっ?」

「これだけの力があると知られちゃったんで何かと面倒なことになるでしょうね」

「う、うん……」

「だから、ニコラ様はどこかに逃げちゃおうなんて考えていると思いました」


 おおう……。

 ウチのメイドさんに心の中を読まれていたよ……。


「でも、私はどこまでも着いていきますからね」

「は……?」

「だって私は、ニコラ様の専属メイドなんですから」


 そう言って笑うウサ耳メイドさん。

 僕なんかよりもはるかに剛毅だよ。


「ありがと」


 僕はそんなお礼を言いながら、父の執務室へと向かう。

 既に両親のケガは癒しておいた。


 その後、街中ですべきことを済ませた僕はとある決意を持って父上に会うことにしたのだ。


「失礼します。お身体はいかがですか?」


 執務室の扉を開けた僕は、ダブルタイガーから報告を受けていた父上にそう尋ねる。

 すると、父上は驚いたように僕を見ると、ふたりの虎獣人とともに跪く。


「今、ふたりから報告を聞いたところです。多くのケガ人ばかりか、していただけるとは、まさに神の奇跡です。この度は、ご助力いただきありがとうございます」


 うん、明らかにやり過ぎた。

 

 何しろ、前世で使っていた神の奇跡は、魔力の少ない世界でも行使できるようにと省エネ化されていたものだったのだが、こちらの世界は肌で感じるほどに魔力が満ち溢れている。

 つまり、いくら神の奇跡を行使しても一向に疲れることがないのだった。


 おかげで、ケガ人を全て癒した上に、壊れた家々まで全て治すことが出来てしまったのだ。

 

 サンタクロースは、煙突がない家に入るため、時には家の鍵を壊すこともある。

 そんなときに、何事もなかったかように修理をする『神の工具ヴェルクツオイクゴッテス』という奇跡。


 いや、まさか襲撃された街全体を修理できるとは思わなかったよ。


 おかげで、街中の人々に神だの使徒だのと跪かれてしまったのだ。

 まさか、ここでも実の父親に跪かれるとは思わなかったけど。


 まあ、申し訳ないけど、これは良い機会と捉えることにして、用件を告げることにしよう。


「頭を上げて下さい。僕は父上の息子に違いはないのですから」

「ですが……」

「たまたま、神のお力をお借りできるようになったに過ぎません。それ以上でもそれ以下でもないのです」

「はぁ……」

「まあ、それはそれとして、ひとつお願いがあります。僕に一軍を預けてもらえませんか?」


 僕は父上の目を見て力強く断言する。


「僕がこの戦いを終わらせます」



★★★★★★★★★★★★★★★



拙作で『カクヨムWeb小説短編賞2023』に参加します。


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