第3話 理解したようです

 再び、僕が意識を取り戻したのは辺境伯領都の中央にある【白狼アルブス・ルプス城】の一室。


(う〜っ、痛かったぁぁぁぁぁぁ…………)


 どうやら、脳ミソを鉄串でかき回されるほどのあの頭の痛みは、今世の僕の記憶と前世の僕の記憶が入り交じったことによる弊害だったようだ。


 無理やり前世の記憶をインストールされたような感覚はまだしっくりと来ないが、どうやら自分が置かれている状況だけは理解できた。


 僕の名は、【ニコラウス・フォン・フローズヴィトニル】9歳。

 大陸中央部に君臨する大国【リリタード王国】において、東部国境を守護する【フローズヴィトニル辺境伯】家の嫡男である。


 そして、絶え間なく外から聞こえてくる金属音からも分かるように、この領地では現在隣接する【ドルレアンス皇国】との戦の真っ只中であった。

 両親は前線で指揮を執っているところを急襲されて意識不明の重体。

 そんな両親の代わりに陣頭に立った僕も、敵軍の放った大規模魔術に巻き込まれて意識を失っていたと言うわけだ。


「とりあえず……」

「ニコル様、まだ起きちゃダメです」


 僕がベッドから起き上がろうとすると、まだ10歳ほどのウサ耳を持つ獣人――――【ネザー】に慌てて制止されるが、今はそれどころではないので無理をする。


「いや、大丈夫だから」

「ダメです……ニコル様は、もう3日も意識を失っていたんですよ。今、動いて何かあったら……私、私は……うううう……」

「ごめんね、でもやることがあるから」


 赤い虹彩の瞳に涙を浮かべた彼女に、そう懇願されると心が痛む。

 それでも、今の僕は確認しなければならないことが多すぎた。


 渋々と僕に従うネザーは、

 姿見の鏡に映る僕の姿は、前世で見慣れた黒髪黒目。

 ただ、明らかに西洋風の顔つきだ。

 たぶん、大きくなればイケメンになれる……はず。


 僕が身支度を整えようとすると、ネザーが着替えを手伝ってくれる。


「だっ、大丈夫だから。ひとりで出来るよ」

「ダメです。ニコル様のお手を煩わせる訳にはいきませんから」

「いや、その……恥ずかしいし……」

「何を今さらですか……裸など何度も見てますよ」

「ええっ〜!?」


(記憶を取り戻す前の僕。こんな幼気な少女に何をさせてるの……)

 

 僕がその言葉に呆然としている間に、テキパキと服を着替えさせるネザー。

 あっという間に、身支度が整った。

 恐ろしいほどの手際の良さだ。


「じ……、じゃあ行こうか……」


 前世ではあり得なかった待遇にちょっと挙動不審になる僕。


 ともかく。こうして僕は、戦時中の領民の様子を確認するために、街へと向かうのであった。

 

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