第4話
作業の間座りっぱなしだったソファに、全身を預けて力を抜く。ちらりと窓の外を見ると、空が赤みを帯びていた。それなりに時間が経っていたようだ。
精神的に相当苦労しながらも、ようやく投書の山を処理し終えた。ほとんどが天ヶ崎に対する個人的な質問だった……二年生の分だけでも目安箱廃止してもよくないか、とか考えたり。ほかにもシュレッダー機能を搭載して、片っ端から投書を細切れにしてしまえばいいんじゃないか? なんてことも思い浮かんでしまったが、さすがその考えは即打ち消した。
「あぁー……」
「随分とお疲れのようですね」
「精神的にな」
「……ごめんなさい、強引に誘ってしまって」
いつになく気落ちした様子の天ヶ崎に、俺は面食らってしまった。昨日はおどけた雰囲気も見せていたような気がしたが、気に病んでいた部分もあったのだろう。
それに、精神的に疲れたのはあくまで同級生が原因なのであり、天ヶ崎が強引に誘ってきたことに関してはもう気にしていない。
「謝られることじゃない。俺は俺の意思で、生徒会役員になったんだから」
「そう言ってくださると……その、ありがとうございます」
表情を綻ばせた天ヶ崎から、俺は目が離せなくなった。
差し込んできた夕日に照らされた彼女の頬はほんのりと朱く染まり、長い黒髪はきらきらと輝いている。俺はそれに目を奪われてしまっていた。
世界には数えきれないほどの絶景、というものが存在するだろう。だがそれらを目にしたとしても、こう思うだろう。今俺が見ている光景こそが、世界で最も美しいものなんだと。そう思わせるほどに、彼女は綺麗だった。
「渡来君?」
「っ、な、なんだ?」
「いえ、ぼうっとして、どうしたのかなと」
「……なんでもない」
慌てて頬を掻きながら視線を逸らす。つい見惚れてしまったなんて、恥ずかしくて口にできるはずがない。
「それより、今日の仕事はこれで終わりか?」
「はい。今日……今週分はもう特には」
「なら次はいつ来ればいい?」
「そうですね……週明けの月曜日に」
「了解」
「……あの、渡来君」
生徒会室を後にしようとカバンを手に取り立ち上がった瞬間、呼び止められた。
「どうした?」
「連絡先、交換しておきましょう。緊急の予定があった時など、困りますし」
「確かにな」
そう言いながら彼女はスマホを取り出す。俺もそれに倣って自分のを手に取った。
学生の間で主流になっているメッセージアプリがあり、お互いにそれのアカウントを所持していたので交換する。
すぐさま天ヶ崎はスマホに指を走らせる。数秒後、俺のアプリに通知が届いた。
『今日は、ありがとうございました』
俺は口元を綻ばせて、そのメッセージに返事をする。
『同じ生徒会の仲間なんだ。この程度、お礼を言われるほどじゃない。今日はお疲れ様』
そのメッセージはすぐに天ヶ崎へと届き、それを読んだ彼女は胸の前へと手を持って行き、小さく振った。
俺も軽く手を振って、今度こそ生徒会室を後にする。
生徒会役員となって初の仕事。その最後には普段とは違った充足感が、確かに俺の胸にあったのだった。
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