第2話 オオカミ君、狼男じゃないかもしれない

青年「俺人間じゃなくて狼男だよ」


木「……はァ…お前もか」


青年「…なにが?」


木「ジジイ相手なら騙せると考えているな、浅はかな詐欺師め」


青年「アサハギ…何て?」


木「私を狼男詐欺に引っ掛けるつもりだろう」


青年「何だその詐欺!?」


木「この前も人間が狼男の振りをして敷地に入って来おったんだ、二度もな!」


木「三度目があってたまるか」


実は白草原はモンスターの種族が占領する領域であり、人間の居て良いところでは無い。これは大昔に人間とモンスターの間で結んだ条約で定められていることである。それでも興味本位でやってくる人間はたまにいて、モンスター達はその度に殺したり追い払ったりしていたが、最近は、こすい手を使ってモンスター達の目を欺く輩が増えてきた。そのうちの一つが、種族を偽って狼男を名乗るという詐欺である。狼男は満月の夜以外は人間と同じ姿であるので、一見しただけでは判別が難しいのだ。

因みに、青年はそういった世間話には疎いため、顔の怖い木がなんの話をしているかはほとんど理解していない。


青年「ふむ…オレはホンモノだから騙されてないと思うよ?」


木「信用せん。口先だけならばなんとでも言えるだろう」


木「私は今物凄く疑り深いのだ。人間でないという証拠を見せねば首をねじ切るぞ」


青年「エ……爪がとがってる?」


木「足らん」


青年「牙がある」


木「足らん」


青年「足が速い」


木「だから何だ」


青年「ぬああ!!ホンモノなのにホンモノの証拠が見つかんねぇ!」


木「キヒヒ」


青年「楽しんでるだろ!?」


木「ほら、早く次の手を考えろ。モタモタしていると首が飛ぶぞ」


青年「もう思いつかないって……」


ラジオを壊され、訳の分からない理由で殺されそうになっている理不尽さに、最早怒りよりも困惑が勝っていた。


青年「おれは狼男なの!そんでこれからシェアハウスを探しに行くの!忙しいからもう行ってもいいですか!」


青年はとにかく怖い木から逃げたくてやけくそになって言った。


木「あァ?何だ、ハウスに用があるならさっさとそう言え」


地面に埋まっていた木の根が土をまき散らしながら飛び出て、青年の腕と首に巻きついた。


青年「!?」


木「この場所こそがお前の探しているホーンテッドシェアハウスだ」


木「好きに見て行けばいい、その余裕があればな」


青年「なになになにするつもり」


木「最後の扉まで辿り着いたときは鐘を鳴らせ」


木「キヒ、死ぬのが嫌ならまず頭を守ることだ。じゃあな」


顔の怖い木はそう言いながら、話が見えず混乱している青年を宙ぶらりんにして、木の根を鞭のようにしならせて底の見えない落とし穴にぶん投げた。


青年「まっ、落ちァ…いや゛あ゛あ あ!!」

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