;ウキ編 めばえの章

;小娘の祈り


嫁入り駕籠に揺られること七日。

険しい山道を抜け、厳しい関所を越えた先にあったのは、華やかなる城下町だった。


祭りの如く賑わう往来、足元を駆ける元気な幼子達。

誰も彼もが活気づき、一人として窶れた顔をしていない。


清潔で煌びやかで、自然の脅威などは何処吹く風で。

まさに平和を体現した有りようは、お伽噺に出てくる異国か極楽のそれ。



地続きにありながら、こうも差とは生まれるものか。

嫉妬に焦げた胸から、何度とない未練が溢れだす。


行くなと引っ張る無数の手を、寂しいと泣く重なった声を、すべてを振り払ってこその今なのだ。

わたしの命ある限り、わたしの命で何が出来るかを、わたしは愚直に考え続けるべきなのだ。



どうか、神様、仏様。

わたしは、どうなったって構わない。

たとえこの身を削ってでも、残した家族と故郷に繁栄を。

件のお殿様とのご縁が、末永く続いてくれますように。


憐れで貧しい小娘の祈りを、果たして聞き届けてくださいますか。






はなくたし』


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