第13話 加護が気になる
「…」
「なんだ?」
沙奈は傍にいた乃愛にも手招きをして呼び寄せると、輪になる形で四人が集ったところで、声を抑えながら用件を話し始めた。
「実はね、クラスメイトの中でここにいる四人だけ、加護に神の寵愛があるの。しかもそれぞれ神の名前は違ってる。他の皆は揃って、運命神の祝福が加護になってるのにね。ノア…志津さんが倒れたあたりから、体調以外の別の違和感がなかった?」
「…そういうこと」
「あぁ、あれがそうなのか…」
心当たりがあったのか、二人ともすごく嫌そうな顔で何かを得心した。
それを見て乃愛はキョトンとする。
やはり他にも同じような人がいたことへの軽い驚きもあったが、そんな顰め面をするくらい負担があるものではないはずなので、単純にその反応が不思議だった。
「神の種類はともかく、加護が祝福か寵愛かで、スキル構成の共通点が分かれてるみたいなの」
沙奈の説明によれば、共通点とはこのようになっているらしい。
・祝福の場合
能力: 鑑定、翻訳
才能: 魔力感知、魔力操作、走査、文献
・寵愛の場合
能力: 鑑定、収納
才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気
「この二つの違いに何があるのかまではわかってないけどね。自分の能力は鑑定で把握できたけど、他人のものはただ見えるだけでその中身までは分からないから。誰か教えてくれそうなら後で聞いてみるつもり。…で、本題なんだけど、この寵愛っていうのがちょっと厄介で。まぁ二人はその様子だと既に実感はあるようだけど。自分の意思とは関係なく、勝手に色々とスキルを使ってくれちゃうのよね。何かの存在の気配も常にあるし…」
乃愛はうんうんと頷いていたが、口ぶりから察するに、あまり良くない事が身に降りかかっているのだろうかと不安が過ぎる。
「…正直なところ、ちょっと気味が悪いと思ってたんだ。私だけじゃなかったのは少し安心したかも」
「俺はまだ何かされたわけじゃねぇけど、この気配とやらがなにかと鬱陶しくてずっとイラついてる。てかあの水、やっぱお前だったんじゃねーか」
河内が新田にジト目を向ける。新田は素知らぬ顔だ。
乃愛はそういう捉え方もあるのかと、一人納得した。
「他の皆はね、それぞれ固有の才能は別としてあるんだけど、能力だけは共通するこの二つしか今のところはないみたいなの。実質すぐ扱えるスキルってそれだけになるから、このままだと先がちょっと不安なのよね。便利ではあるけど、物理的に身を守れるようなものじゃなさそうだし。だからね、提案したの。もしかしたら使えるスキルを自力ですぐ獲得できる人もいるんじゃないかと思って。私たちは…気づいたら既に能力としてのスキルはいくつかあった。だからそれを認識さえすれば扱い方はもう分かってるはず…、でしょ?」
沙奈はほぼそう確信してるかのように伺う目を向けた。
ここへ呼び集めたのは、スキルの再確認をするまでもなく既にある程度は使えるだろうと踏んでいて、そのことを念押しするためだった。
「ええ。…そういえば美濃さんは物を動かしたり超能力っぽいことやってたね。そういうことを実際使ってみて感触を確かめ合うんだと思ってたけど、他の人たちはまだ使える状態じゃなかったわけだ…」
「俺もそう思ってたな。今は何となく使える気はしてるけどよ、実際やってみなきゃなんとも言えねーな」
新田と河内は周囲の様子にぼんやりと目を向けながら、そう呟く。
他の皆は思い思いにステータスやスキルを確認し合っている。
「鑑定の精度や効力の差は才能の分析解析あたりが関係してる気がするんだけど、二人は最初使えてなかったよね?今はどう?まだ他の人の鑑定はできない?」
沙奈もそれらを見遣りながら、気にかかっている疑問を投げかけた。
「…うーん…今は…できそうにない、かも」
「俺も、無理っぽいな」
「そもそも、その才能がいまいちよくわからなくて。勝手に何か使われている感じはするのに、自分では扱えないというか…」
「言われて鑑定してみるまで、能力とか全然気づいてなかったしな。そこは個人差?とか、あるんじゃないか?お前はどうなんだ?」
急に水を向けられた乃愛は、戸惑いつつも勢いのままに答える。
「…え、わ、私は…目が醒めてからは、自分のも、みんなのも鑑定できたよ。あ、でも、なま、名前しか見てないからっ」
むしろなぜ名前だけを見たのか、どこか言い訳がましそうな様子の乃愛に首を傾げる三人。
「あ、そうだ。今思えば、私が最初に使った…使われた?スキルは治癒で、かけた相手は志津さんだったかも。その、倒れちゃったのを見たときに、思わず」
「あ…そ、それで…?すぐ起き上がれた、のかな。…改めて、あのときは、ほんとーにありがとう」
乃愛は朱を差すように頬を赤らめて少し俯いた。膝枕までさせてしまった己の醜態を思い出していた。
「じゃあ早速ー」
—-ドガンッ
その時、離れた所から、何かが砕けたような爆破音が重く響いた。
発生源へと振り向けば、彫像の一つが木っ端微塵となっていて、その前には呆然とする男子—
「—試してみるか、と言いたかったが……やっぱやめとくわ」
河内はその様子を冷ややかな目で一瞥してから、言いかけていた言葉を撤回した。
「お前ら…次から次へと…」
「うっわ、なんか罰当たりそう」
「誰のか知んないけどぉ、これめっちゃ高そー。どうすんのー?弁償?」
「き、ききき、器物損壊罪は三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金…。未成年だし、せ、誠心誠意謝れば、だだだ大丈夫…!?」
「ちょっと。なんで関係ないあんたが一番動揺してんの。ここ日本じゃないし」
鏑木、千田、椎名がドン引きして口々に声を上げたが、戦慄き声で慌てふためく上総には、女子—
「おい、とりあえずこれ片しとけ。こんだけありゃ、一つくらい無くなってもわかんねぇだろ」
「…あ、あぁそうだよな…」
鏑木が証拠隠滅を図ろうと、現行犯の埴生にすぐさま指示を飛ばした。
「—ッ!?外から足音が聞こえる…マズい、誰か来る…!」
突如、沙奈が血相を変えて叫んだ。
「嘘だろおい…どこまで確認進んだ!?」
「えぇ?えーっとぉ」
「いえ、そんな時間はなさそう…!私はこの状況であれば使えそうなスキルがあるのが分かったから、余計なことは喋らないで、ここは任せてくれない?」
そう言って相馬が前に躍り出た。
皆にもすぐ足音が聞こえるようになってパニックに陥りかけるが、それを聞いて少し落ち着きを取り戻す。急展開に誰もが頭を真っ白にさせていたが、何か案があるとなれば今はそれに藁にも縋る思いで首を縦に振る。
沙奈は何かをしようとしていたのか、浮かせていた右手をすぐに下ろした。
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