第12話 おや?
「今はその石の詳しいことはわからない。もう薄々分かってきたと思うけど、ここは日本でもなければ地球でもない。人間ですら…ないのかもしれない。そしてこの件の首謀者と思われる人物は既に亡くなっている。つまり、このまま屋外へ出れたとして、どこを探し歩いたところで私たちの学校もなければ自宅もない。…元の世界への帰還方法が、わからない」
淡々と話をしていた沙奈だったが、最後は無念そうに目を伏せた。
言葉にして現実を突きつけられると、事の重大さを改めて認識する。
「…なんでっ、こんな目にッ遭わなきゃなんないの…!今朝まではいつも通り普通で…帰りは新しくできたショップに行こうって…話して、て…うぅっ」
傍にいた女子—
じわじわと現実感が襲ってきて、皆俯いたり膝を崩して静かに涙を流す。嗚咽と共に家族や大切な人の名前を呟く声も聞こえる。
乃愛は一足早くその心境に至っていたが、空気に呑まれてもらい泣きしそうになっていた。
そこでふと沙奈の姿が目に入ると、また誰か—君島凪—を訝しげに見つめていた。君島は確かパンチ男子で河内と仲良さそうにしていた。今は他の皆と同様に俯いていて、その顔色を伺うことはできない。
彼に何かあるのだろうか。気になっているとまた自然に〈鑑定〉が発動してしまった。
・-・-・-・-・-・-・-・
名前: ナギ=キミシマ (君島 凪)
年齢: 15
性別: 男
出身: 新総学園高等学校1年3組<日本<地球<AZ1201-Dh56
種族: ネオヒューマン
天職: クラウン
魔法: 全属性
能力: 鑑定、翻訳
才能: 魔力感知、魔力操作、走査、文献、必殺、変化、裁縫、演奏
加護: 運命神の祝福
魔力: 100
気力: 100
知力: 100
視力: 100
聴力: 100
筋力: 100
持久力: 100
瞬発力: 100
柔軟性: 100
敏捷性: 100
状態: 健康
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ある部分を見て、思わず乃愛はごくりと息を呑む。
ハッとして沙奈を見ると、パチリと目が合った。動揺を隠せないまま君島と沙奈の間を視線で交錯させていると、沙奈がこちらを見ながらそっと口元に人差し指を立てた。それを見て、もしかしたら同じ事に気づいていたのかもしれないと思い至り、神妙な面持ちで小さく頷き返す。
一頻り悲嘆に暮れたころ、躊躇いがちに河内が声を挙げた。
「あー…それでこれから、どうする?今すぐは…帰れそうにないのは分かったが、だからって何もないここに、いつまでもいるわけにはいかないだろ。とりあえず外には出たいが…」
そこで河内はチラッと沙奈の方を見た。鍵束を持っていた事を思い出していた。
だが先に反応したのは相馬だった。泣き腫らしたのか、目元が赤い。
「ここから出て先に進むのは、当然。けどその前に、誰であろうと遺体をこのままにはして置けない。…ちょっと、誰か手伝って」
言いながら相馬は地面に放置されていた遺体に近づくと、その上半身を抱き起こした。それを見て傍にいた上総が動く。
祭壇上にあった物を片付けてから二人で遺体を慎重に持ち上げると、その上に体を仰向けに横たわらせて両手を胸元で組ませた。
足元まであるローブの下はシャツとスラックス姿だったので、羽織っていただけのローブは脱がせると、全身を覆うように上から被せて袈裟代わりにした。
二人は静かに手を合わせて暫し黙祷を捧げる。他の皆も複雑な顔を向け合いながらもそれに倣った。
一段落したのを見届けた沙奈は、ポツポツと話し始めた。
「…ここから先も、全部じゃないけど一応確認はしてきた。ただ…うまく言えないけど、先に進むほど、何か嫌な感じがするの。だから途中で引き返して、外まではまだ見てない。ここはまだ安全そうだから、先に進むなら、今、このうちに、頭と気持ちを切り替えて」
お願い、と言わんばかりに沙奈は切実そうな顔を皆に向けた。
そのいかにも深刻そうな様子を見れば、誰もが動揺を露わにする。
「まずは自分の才能やスキルをよく確認して、ある程度は扱えるようにしておいて欲しいの。最低限、自分の身は自分で守れるように、今は身体の変質のことは脇に置いて、得た力は全て有効活用できるようにしておきたい。この場を乗り切るためには、皆の協力態勢が不可欠だと思ってる。…どうかな」
力強くそう訴え出した沙奈だったが、最後は少し自信なさげとなって、同意が得られるか伺うような目を向けた。
「あぁ、悪くない。というか、それしかない。いい加減、ここにはウンザリだ。息が詰まって仕方ない」
「この先に何があるのかよくわからないけど…実際に見てきた美濃さんを疑うようなことは全然ないよ。あそこから出してもくれたし、ほんと感謝しかないよ」
「そうだよな。俺たちは段階踏んで説明してもらいながらでもこんなザマなのに、美濃はなんもわかんねぇ状態で一人で先を見てきたんだろ?マジで凄えよ。もちろん協力するに決まってる」
鏑木、新田、河内の順に言葉をかけていくと、他の皆も追随して口々に賛同の声を上げる。
その様子を見て、沙奈はホッとしたように少し肩の力を抜いた。余程この先に不安を感じているようだ。
「じゃあさ!ステータス?って言うやつ、教え合いっこしよーよ」
「うんそうしよー!…んん?そういえば、私たち同士は鑑定できないのってなんでなの??」
「さぁ?あれ、でも美濃さんはできてるっぽくない?みんなが鑑定使えること教えてくれたし」
早速乗り気になって行動を始めた女子—
「通常は相手の知力が自分より下回っていないと通用しないはずよ。…死者には関係ないみたいだけどね。皆の数値はぴったり同じだったから、お互い見えなかったんじゃないかな。それは私も同じなんだけど、見えたのは他の固有スキルが関係してて例外もあるのかも。ごめん、ちょっとこの辺はまだよくわかってなくて」
それを聞いて二人は目を瞬かせると、ポカンと口を開けてから吹き出した。
「へーそうなんだ。てか知力がみんな同じなのウケる。バグってない?」
「まじそれ。秀才くんの上総とあたしが一緒とかありえないしぃ」
ネタにされた上総は少しムッとするも、他の人のステータスには同じく気にかかっていた。
「…この際それはいいだろ。確かに俺も皆んなのステータスは鑑定できないから、美濃の言う通りなんだろう。別に大した内容でもなさそうだし、比較もしときたいから、教え合うのは賛成だ」
そこで皆わらわらと寄り集まって教え合う雰囲気になり始めたが、沙奈がそれに待て待てと頭を抱えて、若干引き気味に誰にともなく言葉を溢す。
「ジョブやスキルはその人の資質とかが影響してる…のは鑑定で見て何となく分かってるよね?それを気にしないなら教えて合っても良いと思うけど…皆んなちょっと仲良すぎない?私が不登校してたからなの…?」
それには不登校をしていなかった乃愛も同感の所存だ。
「んー?そうなのかな?そんな気になんないけどぉ。それより今のこの変な状況のほうが気になりまくりだしー」
「ああ、そんなことは些事だ。今は、原住民なんかを見かけでもしたら、そいつらは全員敵勢にしか思えないんだ。ここで俺らだけでもまとまっておかないと、この先どうなるかわかったもんじゃない」
椎名と上総が続けて返答したが、他の皆も同じような考えなのか頷き合っている。
意外と冷静な状況判断をしていることには安堵もあるが、先ほどまであった惨状を思い返せば、どんな感情なのか理解が及びそうもない。
「…そうね。余計な心配だったみたい。じゃああとは各自に任せるね。…新田さんと河内くん、ちょっとこっち来てくれる?」
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