第14話 誰か来た
♦︎
—-コツコツコツ…コツ、ン
入ってきた方とは反対側にあるもう一つ出入り口から、足音に合わせてガシャガシャと金属が擦れる音も聞こえてくる。
皆一所に集まって、緊張した面持ちで何者かがやって来るのを静かに待つ。その間に、相馬が話しかけてきた。
(聞こえる?これがさっき言った使えそうなスキルの一つで、
(んん、んー、これで聞こえてるの?)
(なんかすげーな。ちゃんと耳から?聞こえる。骨伝導イヤホンみてぇ)
(わぁ、みんなの声が一斉に聞こえる)
(同時に喋られるとわけわかんない、順番に話して)
(って言ってもな、向き合ってるわけでもねーしタイミングわからん)
(インカムじゃなくてトランシーバー方式にできない?)
(それ使ったことないからイメージし辛い。グループ通話っぽくするので今は精一杯。混線調整はしておくから少し我慢して)
(あっ、来た!)
「…◎△、×&%#?…だれ…る…のか?」
何か言葉を発しながら踏み入ってきたのは、全身が黒いプレートアーマーに包まれた謎の人物だった。
応答するより先に、咄嗟に〈鑑定〉をかける。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
名前: アルノルト=フォルガー
年齢: 23
性別: 男
出身: 王国騎士団近衛隊警護二班<アーシア王国<ピセス<KC3631-Qj82
種族: ヒューマン
天職: ソルジャー
魔法: 風属性、無属性
能力: 身体強化、王宮武術、風魔術、軽量、盾
才能: 魔力感知、威圧、闘志、軽減、防護
魔力: 20
気力: 40
知力: 20
視力: 20
聴力: 20
筋力: 40
持久力: 40
瞬発力: 30
柔軟性: 30
敏捷性: 30
装備: 黒鉄の甲冑、鋼鉄の片手剣、真鍮のナックル
状態: 心身疲労
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
(王国騎士?)
(さっき壊したやつ、明らか怒られるんじゃね)
(埴生が前に出なよ。なにそれ、隠れてんの?)
(ちょっと黙って)
「…初めまして。私の名前はソウマです。貴方はどちら様ですか?」
その騎士はクラスメイトらの姿を認めると、腰に下げている剣に手をかけた。
「私は王国騎士のフォルガーだ。…お前たちはどうしてここに?何者だ?」
「それがよくわからないんです。気づいたらここにいて。私たちはただの生徒で、一般人です」
相馬は努めて平静を装いながらも、無難な対応している。
フォルガーはこちらと一定の距離を保ちつつ、辺りの様子を伺っている。フルフェイスの兜を被っているため、その顔色はわからない。
「…」
(状況がよくわかってないのはお互い様みたいだから、警戒はそのまましておいて。何が引き金になるかわからない。誰か防御系のスキル使えない?)
(私、使える…と思う)
(マジで!やっぱこんだけ人いりゃ誰かしら頼りになるーって志津さん??)
(普通に外国人と日本語で会話してるように聞こえるんだけど…これが翻訳スキル?)
(あーもう、今はいいから。じゃあ万が一のときはよろしくね)
「…その奥の、被せてあるローブの中身はなんだ?」
フォルガーは集団の背後にある祭壇を見咎めると、手にかけていた剣柄を深く握りしめた。剣呑な雰囲気が漂う。
(やべぇ…こっちかよ)
(お仲間か?もしかしてヤッた側に見られた?)
(こいつはどうみても自爆っぽいし、こっちはむしろ被害者なんだが…)
(それよりどーすんの、なんか空気怖いんですけど)
「遺体です。さっきも言いましたが、私たちは気づけば突然見知らぬこの場所にいたんです。この方も見覚えありませんが…見た時には倒れていて、既にお亡くなりになられていました。それで、ここで弔いました」
下手な事を言っては藪蛇になる可能性もある。痛くもない腹を探られてはつまらないので、相馬はボロの出ない範囲で嘘偽りなく答えた。この場を穏便に済ませる事ができるのなら、こちらも少しでも情報を得たいという心づもりもある。
「そのローブは王国魔法師団のものだ。知っている人物かもしれないので、その確認がしたい。悪いが、そこを少し離れてくれないか」
フォルガーからの警戒は解けないが、事態が悪化することもなく膠着状態が続く。多勢に無勢ということもあるのか、無闇にこちらへは近づけないようだ。
(言う通りに。さりげなく出口付近に寄って行って)
相馬は振り返って目配せをすると、皆をその場から離れさせた。
(他にも仲間がいるかもしれない。外の方、それとなく見張っとく)
(じゃあ俺も。ついさっき気配察知っていうスキル生えたから使えそう)
(私、マッピングができるみたい。半径500m圏内で測定始めてる)
各々が今自分に出来る事を模索していて、それを実行に移し始めた。生存本能なのか、危機感が増すほどに頭が冴え渡り、能力の把握も加速していく。
フォルガーは集団が充分に離れたことを確認すると、祭壇にゆっくりと近づいて行き、何らかの魔法かスキルを発動させてから、遺体の検分を始めた。周囲にはハニカム構造のような結晶の膜が一面に広がり、それは薄ら発光しているように見える。
(あの形は…スキルにあった盾?他にも何かしてる…)
(カードみたいなの当ててるね。あれで身元確認でもできるのかな)
(鑑定スキルは持って無さそうだし、そうかもね)
(あ、周辺のマッピング完了した。奥の方に…なんか…いる?)
(え!?やっぱり仲間か?)
(他にもあんな武器持ったやつがいっぱいいたらひとたまりもねーよ…俺はもう、人の皮被った宇宙人か何かにしか見えてない)
(…うーん?五つの点が固まってて…何かの生き物だとは思うんだけど。ここから、大雑把に3…400mくらい先の方かな?)
(それ、ここから脱出するにも便利そうだよな。俺らも同じの見えねーの?)
(できるとは思うけど…今試してみるのは不味くない?あの人にも見えちゃうかも)
(気配察知にかかるのは200m程が限界っぽいから、何かが近づいてくるようなら言うよ。遠隔攻撃ならその数倍はいけそうだけど教えてる暇はほとんどないな)
皆で状況を確認し合っている間にフォルガーの方は一段落したようで、一息吐くと盾の形をした膜が消えて、その場を少し離れた。そして徐ろに兜の頭頂部に付いている鶏冠を後ろに引くと、面頬が上がって、精悍な風貌を晒した。
(すっご、まじイケメーン)
(ヤバぁ…めっちゃタイプなんだけど)
(あの赤いフサフサそうやって使うものなんだ)
(いやいや、見て?めちゃくちゃ睨んできてない?)
(怒られるのかな…こわ…)
裏では大騒ぎしているクラスメイトらだったが、もちろん声には出しておらず、周囲は静まり返ったままだ。しかし表情までは隠しようもなく、戦々恐々とした形相が露呈していた。
「済まない、怖がらせてしまったかな。確認したところ、確かに我々の仲間だった。君達の状況を察すると…このように丁重に扱ってもらって感謝する」
鋭い眼光には怯んだが、その口調は先ほどとは打って変わって穏やかだ。騎士流の礼法なのか、手慣れた動作で音を立てて踵を揃えると、胸に右拳を軽く当ててから両手を後ろで組んだ。
(なんかカッケー)
(…どう思う?なんでこんな急に態度が柔らかくなったの?)
(何か察したらしいけど…何がわかったんだろ)
「…いえ、当然のことをしたまでです。因みに、私たちが置かれているこの状況について、何かご存知だったりしませんか」
フォルガーの様変わりに呆けていた相馬だったが、慌てて返答したため、動揺を隠しきれなかった。誤魔化すようにダメ元の質問を投げてみる。
「詳しいことまでは私では分からないが…少し心当たりはある。説明したいのだが、今は非常事態でね。ここは安全そうなので、まずは離れたところで待機している仲間を呼び寄せたい。それからでもどうだろうか」
切羽詰まっているのか、フォルガーの表情は苦渋の色を浮かべている。
出入り口は既に塞ぐように固めているため、それを見ただけでも警戒されていることは充分に理解できているだろう。その上さらに仲間を呼ぶなど、反対されることも目に見えているはずだ。
「それは…。すみません、ちょっと考えさせてもらっていいですか」
「あぁ、分かった。無理は承知なのだが、出来れば手短かに済ませてくれると助かる」
額を寄せ合って、相談タイムに入る。
(必死そうなのはわかるけど…信用できるか?なんで態度が変わったのかも分からないままだし、罠かも)
(向こうだけ納得しててもな。こっちは何もわかっていないのは変わらないんだ。信用できるわけがない)
(でも本当に困ってたりしたら…ちょっと可哀想かも…)
(仲間がいそうなのは把握してたけど、この状況で正直にそう言う必要はなかったと思うし、一応誠実さはあるかも。あと事情を少しでも知ってそうなら…そこはやっぱ気になるんだよね)
(じゃあさ、私たちの誰かがその人たちを迎えに行くっていうのは?そこまで距離は離れていなさそうだしさ。あのフォルガーさんを人質みたいにもしておけるじゃん)
(アホ。んなことしたら、ミイラ取りがミイラになるわ。行くとしたら全員で、だ)
(それでも向こうに何があるかもわかんないから、危険なのは変わらないんだよね…)
(でもこのままあの人をここで監禁しとくわけにもいかないし…俺らもいつまでもこんなとこに居たくないし。いずれ放逐するなら、仲間と戻ってくるのは変わらなくね?)
(ここに置き去りにして皆で逃げちゃうこともできるけど、そこまでするなら、全員で迎えに行ってみる選択をした方がまだ印象は良いかも。マップを見る限り、逃げたところでどうしてもそのお仲間と鉢合わせしそうな位置関係なんだよねぇ。下手すると挟み撃ちにもなりかねないし)
(…それしかなさそうね。他に案はある?無ければ、フォルガーさん含めて全員で迎えに行く、ってことになるけど)
相馬の締めの言葉に、全員が首を横に振った。
皆が皆、信用も納得もし切れていない様子だが、代案がなければ仕方がないだろう。先方は目の前で回答を急いでいる。
「…お待たせしました。提案なのですが、フォルガーさんと我々全員でお仲間方を迎えに伺うのはいかがでしょうか。大所帯となって心苦しいのですが、私たちもこのまま取り残されるのはとても不安で」
フォルガーは目を瞬かせていたが、それを聞いて安堵したのか、緊張した顔を少し綻ばせた。
「そうか、良かった。もちろんそれで構わない。あちらも不安に感じるだろうから、案内もあるし先頭は任せて欲しいが」
「はい、それはお任せします。ではよろしくお願いします」
相馬はそう言って、出入り口から距離を取った。皆もそれに倣う。
(しまった。相談してる素振りだったのに、全部念話で済ましちゃってた。ずっと無言だったのは変に思われたかも…)
(…まぁ、あの感じだと違和感は持ってるっぽいねぇ。でも結構離れてるし固まってたんだから、声が小さくて聞こえなかった態でもいけるって)
フォルガーは先頭を切って颯爽と外に出て行く。来た道を戻るだけなので、その足取りは軽やかだ。
だが一同は、簡単に背後を見せたことに瞠目していた。こちらは数はいても非武装の素人、相手は武装していて歴戦の猛者を思わせる武人だ。そう易々と後れは取らないということなのだろうか。
(…まぁいいか。マッピング担当と察知担当よろしくー)
(はぁい、任された)
(りょーかい)
(あと悪いんだけど志津さん、前に出て来れる?できれば、フォルガーさんの後ろに付いて欲しいかな。バリア的なの期待したい)
(う、うん。大丈夫。まかせて)
(おぉ、頼もしー!僕も横についちゃうからさ、なんかあった時はワンパンで全部跳ね返してやるよ)
(うわ出たよワンパン野郎。チビって逆に足引っ張んなよ)
(いやいやこの目覚めた力はちょっとヤバいよ。守ってみせるぜ)
(じゃあ期待してるね。一番前行け)
(ひど!まぁいいけどー?)
(こいつのこの自信どっから湧いてんの…)
フォルガーを見失わない程度の距離を保ちながら、ぞろぞろと後に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます