第3話 六光

 敵のリーダーに向かって少し歩いた時あちらが声をかけてきた。


「お前は誰だ?」


 お前は何だと言われても困る。


 こっちが聞きたい。


「無視か。でも大抵の見当はつく。さてはお前サンドリーヌの新しい仲間とかだろ」


「仲間とかでは…」


「お前に良いことを教えといてやろう。俺は強いぞ」


 一体何なんだ、この自信満々な男は。

 

「俺はやらないといけないことがあるんだ。だから邪魔をしないでくれ」


「ハッハッハ! 面白いやつだな。気に入った。数十秒だけ戦ってやろう。それで十分だ」


「あぁ」


 敵のリーダーはその鋭く大きな槍を突き出しこちらに向かってきた。


 一歩一歩こちらに近づいてくる度にその力の強さを感じさせる。

 

 そして今にも俺とリーダーとの戦いが始まりそうになった時後ろから声が聞こえてきた。


「その戦いを放棄するんだ」


「!?」


 お嬢様みたいな人と一緒に走ってきたサンドリーヌ様は理解しがたい発言をした。

 

「貴方、その男が何者なのか知らないの?」


「知りませんけど…」


「その男はファーリアス王国屈指の戦士。グレンドよ。その力はもはや小国なら滅ぶほど」


 このリーダーの人はグレンドって言うのか。


 それより小国なら滅ぶって本物の化け物だ。


 でも化け物だからと言ってここで戦いを止めてしまえば証明することができずさらに話しがこじれたことになりそうだ。


 ならここは一か八かやるしかない。


 俺は決意し再びグレンドの方を見た瞬間、


「戦闘中によそ見とは関心しないぞ!!」


 こちらに槍を向けとてつもなく速く向かってきていた。


 でも俺は冷静だった。


 なぜだか負ける気がしなかったのだ。


 手のひらを地面に向けた。


 すると地面にうつる乱れた自分の陰から光までも飲み込んでしまいそうな程の黒さを持つ剣が現れた。


 そしてその剣を強く握る。


「小僧バカだな」


「男の子さん! 危険です!!」


「あぶない!」


「貴方は馬鹿なの!? 勝てるはずがないわ!」


「全く敵とは思えない決意ですね」


 サンドリーヌ様の他の仲間もどうやらここに集まってきたようだ。


 一人だけ一度も話してない人もいた。


「……」


 他の人が俺に何かを言ってきていたがサンドリーヌ様は何も言ってこなかった。


 それもそうか。俺は敵国の人間とされている。


 それが死んだところで何も変わらないしな。


 だが。だがな、俺はもう死んでやるつもりはない。


 せっかく何とか助かった命だ。


 俺の好きなようにこの世界で生きてやる。


「久しぶりに楽しめそうだな」


 グレンドの重々しい攻撃は俺の剣で威力が抹消された。


 そしてグレンドはその衝撃を受け入れる事ができず立ち尽くしていた。


 だがさすが強者と言ったところだろうか。


 その気持ちの揺らぎは一瞬にして消え自信に満ちあふれているように見えた。


「中々やるみたいだな。この槍を受け止めたのお前で3人目だ」


 つまりはグレンドは一撃目で決定打に持っていくというスタイルか。


 確かにあんなの普通にくらってたら死ぬに違いない。


「さぁ! 続きと行こうか!!」


 グレンドは再び槍を突き刺してくるがそれに合わせて俺も回避をする。


 移動しながらその繰り返しをする。


 次第にその繰り返しは速度を上げ激しい戦いになった。


 しかし不思議なことに全くもって疲れない。


 むしろ楽しいまである。


「ハッハッ…」


 つい声に出して笑ってしまった。


「お前、何がおかしい」


「負けている事に気づかないのが面白かっただけだ」


 するとグレンドはその激しい戦いをいきなり止めその場に立ち尽くしこちらを見つめていた。


「お前……。一体あれは」


「さぁね?」


 グレンドは全身から血が吹き出し無様にも地面に倒れた。


「か、勝った?」


 実は戦いの最中に細かくも威力の高い攻撃をちまちまとしていた結果こうなったのだ。


 これぞ塵も積もれば山となるだ。


「お、おい逃げるぞ」


「あ、あれはバケモンだ」


「王国に報告を!!」


 グレンドの仲間がどこかへ悲鳴をあげながら逃げようとしていた。


 まさかリーダーを見捨てて逃げるなんて部下失格だ。


 俺さえ逃げなかったのに。


 そんなやつらにはパワハラを。


第弎位魔法だいさんいまほう、スティングシェイド」


 逃げていたやつらの陰から槍が現れそして体を貫く。

 

 ちょっとグロいけどそれがあいつらにとってはちょうどいい罰だ。


「はぁ、やっと終わった」


 小さな声で呟き手から剣を離す。


 剣は地面に落ちる前にどこかへ消えた。


 これで敵国ではないことが証明できたんだよな?


「六人目の六光ろっこうになってくれ」


 いきなり近づいてきてサンドリーヌ様は真剣な顔で言った。


 とりあえず敵国ではないことが認められたみたいだけど六光ろっこうって一体何なんだ。


「サンドリーヌ様、本当に小僧を入れても良いのか?」


「ああ、そうだ」


 ロバンは明らかに納得してなさそうな顔をしていた。


「ウチは良いと思うよ〜。裏切らないなら」


 この金髪の少し背の低い女の子もきっと六光ろっこうとかいうやつなのだろうか。


「だが敵国の人間の可能性だって!!」


「それはない」


「ですがサンドリーヌ様!!」


「グレンドを倒す実力があるならば私達から離れた時にいくらでも逃げれたはず。それなのに逃げようとはせずさらには私の願いまでも叶えてくれた。そこに疑う余地などない」


 ロバンは黙り込み少し後ろに下がった。


「仕切り直そう。お願いだ。私の仲間になって欲しい。世界を変える為の手伝いをして欲しいんだ」


 特に異世界に来たからと言ってやりたいこともそれほどないしそれなら仲間がいる六光ろっこうとかになるのも良いかもしれない。

 

 それにせっかく異世界に来たんだからこういうイベントに積極に参加するしかない!!


「条件が一つ。装備をくれるというならいいですよ」


 やはりこれからも戦うとなると装備が必要になってくる。


 だが装備なんて高いに決まっている。


 ならここで無償で貰ってやろうという考えだ。


「わかった」


「交渉成立ってことで」


 こうして俺は六光ろっこうに入ることになるのだった。


「レディロス、あれを」


「承知しました。特異魔法とくいまほう、テレポート」


 気づけばあっという間、また知らないとこにやってきました。


 

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