第10話 ど真ん中にいる経験を、わたしはしたい

 高校生は、ある程度大人で、ある程度子供だ。

 だからある程度、波風が立たないようにするし、立ってしまった波風はおさまるのを静かに待ちもする。

 波の荒い海にわざわざ漕ぎ出す必要などないことを、彼らは知っている。

 小学生のように、がむしゃらに波を割って進もうとはしないのだ。

 世間ではそれを、空気を読むというのだろう。

 しかしそれを、いつでもできるわけではないのが、彼らがある程度子供である証だった。

 あれから何回か合唱の練習があり、そのたびハルユキは口パクで参加し、誰もがそれを公然の秘密としていた。

 御木元もあの日以来、ハルユキに特になにかをいうわけでもなかった。もともと、男子の中には合唱に消極的な者もいる。それが支障を来すほど多くならなければ、御木元としても、わざわざ事を荒立てるつもりはなかった。

 せめてあの日も、瀬下くんが口パクででも練習に参加してくれていたら……。

 そりゃわたしだって、言い方は悪かったかも知れない。だけど瀬下くんだって、あんな真っ向から「やりたくない」なんていわなくたっていいじゃない……。

 自分でも自分を正当化しようと必死なのはわかっていた。

 それでもクラス委員をまかせられた身としては、クラスをまとめてくれとまかせられた身としては、看過できなかった。看過するわけにはいかなかった。

 だってみんな、がんばってるんだよ?

 わたし、そのみんなにまかされたんだよ?

 無理してるのはわかってる。柄じゃないのもわかってる。だけど、もう決めたんだ。

 そう決めたんだ。

 秋山くんだって、協力してくれてる。なにもいわずにいてくれてる。

 だからわたしは、後には退けない。

 なんとしても、体育祭を成功させたい。クラスのみんなで盛り上がって、その真ん中に自分がいたい。

 真ん中になんかいなくたって、どこにいたって大丈夫だって思えるくらい、ど真ん中にいる経験を、わたしはしたい。

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