聖母さまの教会で

 少し歩くと、エイジくんは立ち止まりました。

 サトルくんは、たずねます。


「どう? 誰かいる?」

「誰もいないみたいだ」


 エイジくんは、教会を見上げます。

 小さな木で出来た教会で、入り口のドアは壊れて、開け放たれていました。

 中には、聖母さまの像がありますが、それ以外は何もありません。

 椅子も黒く焼け、壊されています。

 

 エイジくんは、ぽつりと言いました。

「ひょっとして、悪魔が壊したのかな」


 教会の様子を聞いたサトルくんは、不安になりました。

 お父さんたちが戦っている町は、まだずっと先です。

 お父さんたちが、どうなったのか心配です。


「でも、聖母さまの像は無事だよ。聖母さまは、悪魔を追い払ったんだよ」

 エイジくんは、聖母さまの像に近づきます。

 そして、歓声を上げました。


「サトルくん、聖母さまの像の下にパンがある。ビンづめの蜂蜜も」


 エイジくんは、カゴに入ったパンとビンづめの蜂蜜を持って来ました。


 それにさわったサトルくんにも、笑顔が戻ります。

「近くに住んでる人が、お供えしたのかな。食べてもいいのかな」


「じゃあ、今夜はここで寝よう。朝になっても誰も来なかったら。聖母さまにお祈りしてから食べよう」


 エイジくんが言い、サトルくんはうなずきます。


 その夜、ふたりは聖母さまの足元で眠り、朝を迎えました。

 けれど、教会には誰も来ません。

 鳥の声が、遠くから聞こえるだけです。


 ふたりは、聖母さまにお祈りしてから、パンと蜂蜜を食べました。

 残ったパンと蜂蜜も持ち、教会を後にしました。


 パンを蜂蜜をお供えした人に、お礼を言いながら。

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