村のひとびと

 小さな村は、ひっそりと静まり返っていました。

 村のこどもたちは、家に帰って外にはいません。

 ヤギもガチョウも、小屋に戻されていて、鳴き声も聞こえません。

 

 エイジくんのお母さんは、家の前でふたりを待っていました。

 帰って来たふたりを、優しく抱きしめてくれました。


 サトルくんは、エイジくんの家でごはんを食べます。

 サトルくんのお母さんは、サトルくんが五歳になった時に、天国に行きました。

 お父さんが町に行って以来、サトルくんはエイジくんの家で暮らしているのです。

 

 今日の晩ごはんは、干し肉入りの野菜スープとパンです。

 固くなったパンは、スープにひたして食べます。

 三人は、聖母さまにお祈りし、ゆっくりスープを味わいます。



 晩ごはんが終わると、サトルくんとエイジくんは、一緒にベッドに入りました

 干し草のベッドは大きく温かく、ふたりは向き合って目を閉じます。


 けれど、エイジくんは小声で言いました。

「サトルくん。もし、春になっても父さんも兄さんが帰って来なかったら、ぼくは町に行くよ」


「えっ」

 サトルくんは、びっくりして目を開けます。

 けれど、エイジくんの顔は見えません。


「町は遠いよ。大人でも、歩いて五日かかるって村長さまが言ってたよ」

「それでも行くよ。父さんと兄さんに会いたい。十日かかっても行く」


「ぼくも、父さんに会いたい。でも、ぼくが一緒だと、十日以上かかっちゃうね」

「サトルくん、一緒に行こう。十五日かかってもいいよ」


「ありがとう。でも、きっと父さんたちは帰って来るよ」

「そうだね。きっと帰って来るよ」


 サトルくんは、エイジくんが差し出した手を握ります。

 ふたりは目を閉じ、眠りにつきました。


 薄い月明かりが、窓の隙間から差し込んでいました。

 

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