白い花が咲く町で、お父さんたちは戦争をしています

mamalica

冬のおわりに

「もうすぐ春だね」

 エイジくんが言いました。


「うん。雪がとけたら、谷を通れるようになるね」

 サトルくんが答えます。


「春になったら、兄さんが帰って来るよ」

 エイジくんは、吐いた息で両手を温めます。


 ふたりは丘の上から、深い谷を見降ろしました。

 谷に積もった雪の高さは、半分ぐらいになりました。

 

 谷を越えて、二つの山の間の道を通った向こうには、大きな町があります。

 町のそばには広い川があって、エイジくんのお兄さんは、川岸で大砲を撃って町を守っています。


 川の向こうには、たくさんの悪魔が住んでいます。

 悪魔が来ないように、大人たちは戦っているのです。


 エイジくんのお父さんも、サトルくんのお父さんも、二年前の夏に町に行きました。

 けれど、冬が過ぎて、春になっても帰って来ませんでした。


 去年の夏には、エイジくんのお兄さんが、町に行きました。

 夏の終わりには、お兄さんから手紙が届きました。


 手紙には、元気に過ごしているから心配いらないよ、と書いてありました。

 封筒の中には、雪のように白い花びらが三枚、入っていました。

 川のほとりに咲いている花だそうです。

 

 エイジくんのお母さんは、「今度の春に、みんな帰って来るよ」と言います。


 本当かな?




「サトルくん、帰ろう。風が冷たくなってきた」

「うん。帰ろう」


 エイジくんは、サトルくんの手を握りました。

 

 サトルくんは二年前に川で溺れ、目が見えなくなったのです。

 ぼんやりと色は見えますが、ものの形は見えません。


 ふたりは仲良く、丘を下りて村に戻りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る