春のおわりに

 春が来ました。

 谷の雪はとけ、草がしげり、黄色い花が咲きました。

 鳥も蝶も、元気に飛び回っています。


 エイジくんのお母さんは、昼は麦畑で働いています。

 エイジくんとサトルくんは村に残って、ヤギの世話をします。

 今年は、六頭の赤ちゃんが生まれました。

 

 ヤギたちがお昼寝をする頃、ふたりはパンとチーズのお昼ごはんを食べます。


「……もうすぐ春が終わるのに、だれも帰ってこないね」

 エイジくんは、悲しそうにつぶやきます。

 サトルくんは、手を伸ばしてエイジくんに触れました。


「エイジくん。明日のお昼に村を出よう。父さんたちに会いにいこう」

「うん。そうしよう」


 ふたりは、おとなが仕事に出ているお昼に村を出ることにしました。


 この日のために、エイジくんは、おやつの焼き菓子を袋にかくしておきました。

 町につくまでの、大切な食料です。


「君のお母さんは、心配するね」

「うん。でも、手紙は書いておいたよ」


 エイジくんは、「おとうさんたちにあいに、まちにいきます」と書いた手紙も用意していました。

 

「町は遠いけれど、がんぱって歩こう」

「うん、エイジくん。がんばって、ついて行くよ」


 ふたりは笑顔で、ちかいます。

 父さんたちと兄さんに会おう。

 三人が帰れないのなら、三人が元気に戦っていると母さんに伝えよう、と。




 翌日も、空は晴れていました。

 ふたりはヤギたちにエサをあげ、家に戻って、お父さんたちのマントを着ました。

 焼き菓子を入れた袋と、水を入れた皮袋を肩にかけ、こっそりと村を出ます。


 エイジくんは、しっかりとサトルくんの手をにぎっています。

 

 お日さまが、ふたりを優しく見守っていました。

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