組み合わせた両の手
最強のエスパーのベッドを使うなんて畏れ多いです。
そう言って応接間のソファに横になったニセモノの最強のエスパーは、一分も絶たない内に眠りに就いた。
ぼくと二五四は部屋の片隅に置かれていた円筒形のクッションチェアを持って来て、ニセモノの最強のエスパーの傍らに座った。
「エスパーによってそれぞれなのよ。身体のどの部分を触るかって。どの部分でも読めるってエスパーもいれば、この部分じゃないと読めないってエスパーもいる。私は前者だけど、手が一番読み取れる、ような気がする。経験則ね」
「勉強になります」
二五四はお腹の上に組み合わせて置かれたニセモノの最強のエスパーの両の手に、自分の両の手を置くと目を瞑った。
集中するから話しかけないでねと言って。
ぼくは強く頷いた。
(やっぱり、まるっきり、最強のエスパーなのよねえ)
五二四はなるべく身体に力を入れないように注意しながら、接触テレパスを開始させた。
一度試みた時と同じ。
まるっきり、最強のエスパー。
当たり前だ。
マトリクスコピーをしているのだから。
しかも、ほとんどのエスパーが敬遠している脳すらマトリクスコピーをしている。
よほど、自分のエスパーとしての能力に自信があったのか。
ならば。
二五四は自分自身に問いかける。
ならば、どうして最強のエスパーではないと見破れたのか。
違和感だ。
幾度か本物の最強のエスパーにも接触テレパスをしたからこそわかる違和感。
このニセモノの最強のエスパーは、ほわほわしすぎている。
本物の最強のエスパーはもっと、複雑だ。
ほわほわしていたり、つるつるしていたり、ごわごわしていたり、ざらざらしていたり、すべすべしていたり。
多様な感覚が襲いかかってきて、ひどく眩暈がして、正直気持ち悪くなり、接触テレパスを止めたくなる。
あの感覚はまるで警報を受けているようだった。
いや、事実、そうなのだろう。
けれど、このニセモノの最強のエスパーは違う。
警報ではなく、安心感。
真綿で包まれているような感覚。
ここなら誰も自分を害するものはなく、守ってくれるという安心感を与えてくれる。
けれど、決して、完璧ではない。
拙い安心感。
例えるならば。
(こいつは。いえ。この子は)
目を見開いた二五四は叫んだ。
(2024.1.26)
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