第4話 保護

     

 4保護




 今日で薬草採取4日目。

 北、南、北と通い今日は南。昨日と一昨日は獲物は無し。あまり狩りすぎると目立っちゃうからね。

(10才でFランク昇級、初日にホーンラビット3匹討伐で目立ってないと思っているのは本人だけ)






 日が沈み始めるころ、東に広がる魔の森から薬草採取をしていた一団が街に戻ってくる。若い低ランクハンターや小銭稼ぎのじいさんばあさん。その後ろを10才にしてはやや小柄な水色の髪の少年が隠れるようについていく。

 シャツインして膨れたお腹の物をだいじそうに抱えて門衛の目を盗んでコソコソ街に入る。


 疾きことGの如しと呟きながら小走りで薬草採取の一団の間をすり抜け、台車や備品が置いてある門前広場の向こう右側手前に見えるハンターギルドの建物に滑り込んだ。

 入って左手にある受付カウンターに近寄り背伸びして受付嬢のふっくらしたおばちゃんドリーに切羽詰まった声で話しかけた。


「おばちゃん、ギルマスいる?」

「あら、どうしたのカロン」



 どうやって説明しようか考えてると、ふふんと鼻息ドヤ顔で立ち上がると、ちょっと待ってなさいと奥へ行ってくれた。たぶんお腹の膨らみが見えてたから何かしら察してくれたのかな。


 ホッとしたところで薬草採取の一団がギルドに入ってきたので気配を消して後ろに下がる。

 もう一人のギルド職員のおじちゃん通称サブマス(俺だけがそう呼んでいる)が応対しているのをぼーっと眺める。


 


 おばちゃんが俺を呼ぶ声にびくっと反応して、薬草を納品している人たちの横をそそくさと通り抜け、執務室のドアをノックして返事を待ってから中に入る。

 中にはマッチョジジイが執務机に座っていた。



「どうした小僧。ん? その腹のモンか? 見せてみろ」



 お腹をだいじに抱えてたらわかるよね。俺はソファーに座り、中の物が落ちないように膝を閉じてシャツインしたシャツを引き上げつつ丁寧に中の物を取り出し、自分の膝の上にのせた。


 それは微かに光をまとったピンク色のタヌキ?の赤ちゃん

 。

 ギルマスは「うぉ!」っと声を上げ動かなくなった。暫く固まるギルマス。



「ふ~、まさか聖獣か………生きてるうちにお目にかかれるとはな。で、

 何の聖獣様なんだ?」



 やっぱり「聖獣」って呼び方なんだね。ザ・異世界転生した俺としては「こっこれは!まさかの聖獣ではーーー!?(どどーん)」とピンと来たが、呼び方がわからなかったから不用意な発言を控えてみました。



「んー、たぬき?」

「ふむ、タヌキ・・か。イチから説明しろ。」




 Fランクになり4日前から森にでて薬草採取をしていたが、森の浅いエリアを正面から離れるように北、南、北と日替わりで繰り返し今日は南方面に来ていた。

 ホーンラビットに注意しつつ薬草を採取しているとコンコンと遠くで木を打つ音がする。キツツキかな?と無視して薬草採りを続けていると、またコンコンとさっきより近くで音がする。頭を上げてみると、30mぐらい離れたところに、でっかい紺色のクマが2本足で立っていた。

 ゆうに4mは超える身長のクマ。中腰のまま「えっ?」と固まる俺。慌てて戦闘体制をとろうとすると、クマがおもむろに頭を下げた。


 ペコリ、ペコリ


 2回。そして自身の右の足元を指さす。


 ピシ、ピシ


 2回。そしてもう一度ペコリペコリ、ピシピシ。そして5mほどさがってまた繰り返した。


 ペコリペコリ、ピシピシ。


 今度は右斜め前、最初に示した場所を指さす。再び5mほど後退、一連の動作を繰り返し俺のいた場所から50mは離れたろうか、そこからは後退せずひたすらペコリピシを繰り返す。


 俺は意を決してクマが示した場所にいってみる。


 そこには淡い光に包まれたピンク色の獣の子がいた。ピンクのたぬき?


 何度かクマとタヌキの子の間に視線を行き来させ、異世界魂が叫ぶ。まさかこれは子育て奮闘編スタートか?!


「この子を育てろってこと?」


 両手を口の横に添えて大声でクマに聞いてみると、ウンウン頷いて両手あげて頭の上で丸をつくる。サーカスのクマみたいだ。でっかいクマが頭の上で丸をつくるってなんだかコミカル。緊張感まるでナシだな。


 クマは最後にもう一度頭をさげると手を振って森の奥に消えていった。

(もちろん俺も手を振る)






「インディゴベアーか?! 実在したのか…」



 インディゴベアーとはここよりはるか南の森を縄張りにしている聖獣と噂されているクマ。滅多に人目に付くところに現れないのと、過去の目撃した人も亡くなっているため、今では伝承レベルのまぼろしの生き物扱いなんだそうだ。




「小僧おまえ聖獣についてどれだけ知ってる?…って知ってるわけなか。」


 オレは首を横に振ってから、うんうんと頷く。ギルマスは俺もあまり詳しくはないんだがと断りを入れて説明しだした。




 この世界にはいろんな種類の聖獣がいるが正確な個体数はわかっていない。稀に人型になる聖獣がいて、数十年に一匹の割合ではないかと言われているが不明。人型になった聖獣は防御力が低いからケガもしやすく森の奥地では育て難いってことで人に預けられるのだと言われている。

 預ける人も選ばれた存在であって、その人から国や権力者が聖獣を取り上げようものなら街が半壊させられたり、権力者が行方不明になったりしたことから、聖獣とその育て人(守人)には過度な干渉はしてはならないというのが暗黙の了解となっているんだと。



 ふーん意外と自由?なんて思ってたら


 

 そんなことを意に介さないアホウだったり、敵国を混乱に陥れたい者だとか意図的に聖獣をさらおうとする輩も湧いてくるとのこと。



 うげっ、逆に不自由? 厄介者扱いだったりする?

 


 ギルマスは20年前の神託の話はしたなと前置きして、それ以前は領土拡張合戦の世の中で、聖獣の研究は隅っこに追いやられていた。神託後に聖獣はこの世界のバランスに重要な要素なのでは?と唱える者が出てきて、各国は聖獣の研究にもチカラを入れだした。しかし人型の聖獣はいるにはいたが、触れてはいけないタブー扱いだし、成人して森の奥に引きこもってしまったりで、研究は遅々として進んでいない状況なんだってさ。

 だからギルマスとしても調べはするが、この先どんな展開になるか読めないって。


 ん~~。なんかヤバそうな予感。



 取り敢えず領主と国には報告することと、少しは護衛がつくかも知れないと言われたので、嫌そうな顔をしといた。監視反対!モルモット反対!


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