第14話 夕崎双葉


 八尺様は、段々姿が薄くなりながら、路地を物凄いスピードで進んでいく。


 双葉も、その八尺様から距離を一定に保ち、これまたとんでもない速さで追いかけていく。


 肝心の私は・・・


「待って、待ってよ・・・」


 見事に置いていかれていた。


 まぁ、当たり前と言えば当たり前である。


 契約の力というのもあるんだろうが、やっぱり元々の体力の差もあるのだろう。


 ふと、前を走る双葉が足を止めた。


 何事かと思ったが、どうやら八尺様が完全に姿を消してしまったらしい。


「・・・どうするの?」


「まぁ、元々追いつける気はしてなかったし、想定通りかな。それより、この時空も長くはないから、そろそろお暇するよ」


「え?」


 私が反応する間もなく、強く手を引かれた。


 ここまで通ってきた道を、ハイスピードで戻っていく。


 気付けば、いつも通りの風景が広がっていた。


 目の前を下校中高校生たちが通り、遠くの方では部活をしている生徒たちの声が響いている。


「それじゃあ、今日はここで解散。僕は友達とカラオケに行くから、また夜にね」


 言って双葉は前を歩く集団に溶け込んでいく。


 そのまま少し、私は放心していた。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 


 その夜、自室にて。


 自身はベッドに横になり、仔犬をお腹の上で遊ばせながら、考える。


 走っている途中で消えてしまった八尺様は一体何処へ行ったのか。


 また、攫われた子供は何処でどうなっているのか。


 まぁ、どちらも素人の私が考えても仕方のないことなのだが。


 そう思い、目を瞑る。


 そう言えば、今日双葉の力を介して行った、『別時空のあの場所』は実際に存在する場所なのだろうか。


 仮に存在していれば、その場所に行けば何かしらヒントが得られるのでは?


 私は記憶力がそれなりにいいので、行った場所への道筋はしっかり覚えている。


 しかも、双葉と一緒に行かなければ、別時空に行くこともないだろう。


「・・・明日、行ってみるかぁ・・・」


 目を開け、零す。


 お腹の仔犬はいつの間にか消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る