八尺様編

第11話 目撃談


「美玖、集まれって、父さんが」


 演習が終わり、部屋で寛いでいた私に、双葉が言う。


「判った。何かあったのかな?」


「さぁ。僕もさっき兄ちゃんに呼ばれたから何も」


 雑談しながら廊下を進んでいく。


「おや、集合でございますか?」


「うん。だからお茶の用意、お願いしてもいいかな?」


 途中で会った佐川さんに、双葉は言う。


 双葉は誰に対しても腰が低い。


 佐川さんは承知しましたと頭を下げて厨房に向かった。


「遅いぞ。何をしていた?」


 広間には既に全員集合しており、和馬と哲司は睨みつけてくる。


「何してたって・・・急に集合って言われた上に、僕は美玖を呼びに行ってたんだけど?」


 2人の雰囲気に、私は臆しそうになったが、双葉は気にせず反論する。


「で、何の用?今日は僕も疲れてるから、早く休みたいんだけど?」


「先程、雲沢家から通達があった」


 文句を垂らす双葉をよそに、哲司は言う。


「近頃、この辺りで少年の失踪が増えていることは前にも言ったと思う。その、目撃情報があったらしい」


 双葉は椅子に座り、黙って聞いている。


「目撃者は2丁目の主婦。内容は、近所に住む小学生の男児が見知らぬ女性と話していたというもの。その女性の見た目があまりにも異質だったから覚えていたらしい」


「その見た目は?勿体ぶらないで早く教えろ」


 和馬が言う。


「異常に高い身長、真っ白なワンピース、顔が隠れるほど大きな帽子、そして、『ぽぽぽ』という声。まぁ、一目瞭然だな」


「・・・八尺様」


 母が零す。


「まぁ、誰の仕業か判らんが、下らない悪戯のせいで被害が広がっているんだ。少しでも早く食い止めなければな」


 八尺様は昔、地蔵の力により狭い場所に閉じ込められていた。


 その地蔵が誰かの悪戯で壊され、今では八尺様は自由に出歩けるようになってしまっている。


 そのせいで、被害が段々広がってしまっている。


「犯人が判ったところで、この件の担当を出せと雲沢家は言ってきた。原井家だけでは担当できないと判断したんだろう」


 誰が出る?と哲司は聞く。


「美玖でいいじゃないか」


 和馬の声。


「折角契約したんだ。その力、見せてもらおう」


「早くないか?」


 双葉が反論する。


「美玖はまだ、契約の力に慣れていない」


「じゃあ、お前がサポートに入ったらどうだ?そこで、自分が美玖に甘くしすぎたことを実感しろ」


 和馬と双葉は暫く睨みあう。


 そして、


「判った」


 双葉が折れ、今まで聞いたことのないくらい、低い声で言った。


「今に見てろよ?」


 それは普通、私のセリフではないのだろうか?

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