第10話 一夜明けて・・・


「原井君、ちょっといいかな?」


 翌日の昼休み、幽のもとを訪れた。


「いいですけど・・・どうかしましたか?」


 幽は、昨日の出来事など嘘のように笑顔だ。


「ここじゃダメ。何処か別の場所に・・・」


「そうですか。では、こちらに」


 幽は立ち上がり、私を屋上へと案内する。


 次いで、野次馬もぞろぞろとついてくる。


 そして屋上へ足を踏み入れる瞬間、幽は指を、1度だけパチンと鳴らした。


 野次馬たちが屋上に出ても誰もおらず。


 そこには虚しいばかりの静寂が漂っていた。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 屋上の扉を抜けたと思っていたのに、気付けば多目的教室にいた。


「え・・・どうなってるの?」


「何も不思議なことじゃない。八咫烏の能力だ」


 聞けば、幽が契約した八咫烏は、自由にワープしたり、人や物を移動させたりできるらしい。


「そういうお前が契約したあの犬の能力は何なんだ?」


「え?あぁ、多分、『治癒』だと思う」


「は?治癒?」


「うん。だって見てよ」


 そう言い、昨晩切られた腕を見せる。


 そこに傷跡はなく、白く奇麗なままの肌がある。


「・・・確かに、そうみたいだな」


 幽も素直に認める。


「それで?そいつの正体は判ったのか?」


「全然。何にも。家の文献にも載ってなかったし・・・」


 私は肩をすくめる。


 幽も溜息をついた。


「まぁ、その内判ることだろうが・・・」


 そこで会合は終わった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「原井君、居た!」


 廊下に出ると、女子生徒が駆けてきた。


「何処に居たの?探したんだよ」


「すみません。因みに、何処を探されたんですか?」


「そうそう。原井君を追いかけて屋上に行ったのに、誰もいなかったんだよ。なんでなの?」


「それは・・・なんででしょうね?怖いですね」


 私としては、平然と対応している幽のほうが怖かった。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「ぽ、ぽぽ」


 少年はその声で周囲を見渡した。


 辺りには閑静な住宅街が続くだけで、誰もいないし、何もない。


「ぽ、ぽぽぽ」


 また聞こえた。


「・・・何だろう・・・?」


 首を傾げて、再び歩き始める。


 その先すぐの十字路を左に曲がった。


「え・・・うぁ・・・」


 そこに居たのは、見上げるほど大きな、真っ白のワンピースを着た女性で、その顔は大きな帽子で陰になっていて見えない。


「ぽぽぽぽぽ・・・」


 女性はそう言うと、その場から少年と共に跡形もなく消え去った。

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