第8話 会合2


「ただいま・・・」


 恐る恐るとった感じで、私は玄関を潜った。


「おかえりなさいませ・・・あら、その仔は?」


 出てきたお手伝いの佐川さんは、私の腕で眠る仔犬を見て聞く。


「・・・拾ったんだ」


「違うでしょ」


 咄嗟に噓をついたが、隣の双葉から訂正が入る。


「ついに美玖も契約したんだよ」


「!左様でございますか。おめでとうございます」


 嬉しそうに、佐川さんは礼をする。


 そうして、


「哲司様、美玖様が契約なさったそうですよ!」


 奥に叫びながら引っ込んでいった。


「あらあら・・・」


 隣で双葉が面白そうに言う。


「これは中々大変なことになってきたねぇ・・・」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 数十分後。


 夕崎家は一堂に会した。


 円卓に家族5人と佐川さんが座り、中央には仔犬が置かれた。


「・・・契約した、とのことだが」


 やがてゆっくりと父、哲司が口を開く。


「その相手がこれなのか?」


 これ、は眠る仔犬を指すらしい。


「お前は前々から契約の相手が弱すぎだとか、ほかの理由をつけて断っていたじゃないか。その条件に見合っているのか?」


 私は黙ったまま俯く。


「・・・何か言ったらどうだ?」


「まぁまぁ、父さん、その辺で」


 双葉が間に入る。


「こうやって契約相手を見つけてきただけでも成長だと思わない?」


「思わない」


 一瞬で否定される。


「前々から思っていたが、お前、美玖に甘すぎないか?」


「そんなことないよ」


 和馬の疑問に対し、笑顔で否定する。


「・・・その甘さが、美玖の成長を止めていると思わないのか?」


「成長曲線は人それぞれでしょ」


 笑顔のまま、


「それに、兄ちゃんだって美玖を否定してばかりいて、成長を止めてると思わないの?」


「言わせておけば・・・!」


「止めなさい」


 今にも諍いが始まろうとする空気を、母が纏めた。


「今の議題はそこじゃありません。美玖の契約についての話です」


 そうして、私の方を向いて、


「美玖、あなたが契約したこの仔ですが、本当に悪意はないのですか?」


「・・・判らない。勢いに任せて契約しちゃったし・・・」


 母はため息をつく。


「・・・現場に出ず、契約すらしていない私が言うのも何かとは思いますが」


 そう前置きして、


「もしこの仔に悪意があった場合、契約者であるあなたにも影響が出ることを忘れないように」


 そこで、仔犬が目を開けた。

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