第7話 会合


 暫くすると、辺りにいた烏が消え、見慣れた住宅街が戻ってきた。


 私の腕の中には変わらず、仔犬が丸まっている。


「・・・契約、しちゃったなぁ・・・」


 勢いに任せて契約してしまったが、後先のことは何も考えてない。


「なんて説明しよう・・・」


「美玖?」


 後方から声をかけられた。


 振り返るとそこには双葉がいて。


「その仔は?普通の仔じゃないね」


 言って、仔犬に手を伸ばす。


 触れる直前、バチンと何かに弾かれる。


「・・・なるほど」


 弾かれた右手を押さえ、納得して言う。


「父さんたちへの説明は、援護するよ?」


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「幽お坊ちゃま。お戻りになられましたか」


「うん。ただいま」


 玄関に入ると、控えていた執事が恭しく頭を下げた。


「旦那様はいつものように大広間に。神楽様はすでにそこに集合しております」


「判った。ありがとう。けど、まずはいつもみたいに着付けを手伝ってくれる?」


 かしこまりました、と執事。


 自室に戻ると、制服を脱ぎ、刀を置き、和服に着替える。


 原井家の会合時のルールで、参加者は着物を着なくてはいけないのだ。


「・・・遅いぞ。何をしていた?」


 大広間に入ると、奥に座っていた父が低い声で言う。


「・・・仕事だよ。父さんが行けって言ったんじゃないか」


「口答えするな。お前に、反論の権利はない」


 じゃあ言うなよと思ってしまう。


 言っても無駄なので、空いていた座布団に正座する。


「じゃあ、本日の会合の手取りを。まず、最近この辺りで起こっている怪現象について」


 父の近くに座る神楽が口を開く。


「内容は、まぁ、言ってしまえば神隠しの類。でも、この辺りの神社といえば夕崎家が管理するところだけ。あそこに祭られてる神様は穏やかなはずだから、まず有り得ない。よって、何かしらの妖怪、または霊が関わっていることは自明。この件の担当はどうする?」


「幽でいいじゃん」


 幽の隣に座る双子の兄、りょうが言う。


「面倒くさそうだし、この中で1番使い物にならない幽がやればいい」


「同じ顔の奴に言われるとは心外だな」


 ため息をついて、


「お前が出ればいいじゃないか。もう半年以上出てないだろう?」


「ボクが行っていいとでも?」


 幽のほうを向いてニヤリと笑う。


「この辺り一帯、灰になっちゃうよ?」


 幽は俯き、少し考える。


 仮にこの後もこの件に反対し続けたとすると、恐らく神楽から制裁を食らうだろう。


 心身ともに疲れるあれを食らうくらいなら・・・


「・・・判ったよ。僕が担当する」

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