第37話 鬼人化

 キィっと扉が開いた。


「ようこそ」


 俺は椅子に座りながら歓迎の言葉を出すが、4人は俺を睨んだままだ。

 アナウンサーの人も空気をよんでだまっている。


「魔王……どういうつもりだ?」


「何がだ?」


「魔物達が作った道を辿ったらここまで来れた。何を考えているんだ」


「何も考えちゃいないさ。ただ……その刀の力で同胞達が殺されていくのは辛いだろう?」


「見ていたのか……」


「ああ」


 指をパチンと鳴らして鬼瓦さん達から見てちょうど後ろから撮った映像を見せた。


「カメラか……なにもない」


 勇気と呼ばれていた銃使いが後ろを振り向いてそう呟いた。


「このダンジョンで起こった事は全て俺の目に入るのだ。さて、そちらの戦闘員は4人という事でいいのかな?」


 テレビ関係者の人が5人くらいいるけど巻き添えにしたら申し訳ないしなぁ。


「なんだ? 配慮してくれるのか?」


「あぁ……俺はお前達人間のように騙し討ちなどしないから安心しろ」


 俺は立ち上がりゆっくりと歩き出す。


 4人は身構え、カメラクルーは静かに後ろに歩く、アナウンサーも何も喋っていない。

 今こそ、喋りどきだと思うけど喋らないのか?


「さあ、好きな所からかかってこい。相手をしてやろう」


 レーヴァテインを使いたいけど使ったら、この人達石になっちゃいそうだしなぁ……


「ならば先手必勝! やぁーー!!」


 ハルバード使いが走ってきたがわざに攻撃を受けてやる必要はない。

 足を凍らせればそれで動きは止まるだろう。


「どうした? 先手必勝じゃないのか? ほら、首ならここにあるぞ」


「くっ……」


 動けなくなったハルバード使いのギリギリ射程外から首を差し出してとんとんと自分の首を指で叩く。


「アンナから離れろ!」


 鬼瓦さんが吠えた。そして向かってくるのだが、やはりスピードが違う。

 転移魔法で刀を奪って無力化させてもらうか。


「ッ!?」


 そう思い魔法を発動させたが何かに弾かれたような感覚がきた。そして首を確実に狙った刀を上体を逸らすことによってなんとか回避する。


 マジかよ。鬼丸国綱に魔法が効かないのか……こりゃかなり面倒だな。

 なら……


「くっ……はっ……」


 悪いとは思ったがハルバード使いの首を片手で思いっきり絞めた。

 暴れようとしてハルバードを振りますがそれを魔力の盾で弾いて力を強める。


「さあ、先程は無関係の人間だった訳だが……仲間が人質に取られた場合はどうするんだ?」


 当然、殺す気はないけどあの刀がある以上俺も油断はできない半殺しくらいなら許容範囲内だ。

 そもそも冒険者なんてそれくらいのリスクは付きものなのだ。この人達もそれはわかっていると思うけど……


「わ、私のことは構わないから……」


「そんなわけに行くか! 待ってろ! すぐ助けるから!」


 鬼瓦さんには悪いがそれはさせない。あれ? 確かこの人のパーティは4人だったような。メリケンサックをつけたメリケンサックをつけていた軍人風の女が……


「シッ!」


「ぐっ……」


 瞬間左から顔面に向けて右ストレートが飛んできた。咄嗟に魔力の盾で防いだが、それを貫いて顔面にヒットした。


「大丈夫?」


「ああ、すまない……」


 ててて。マジかよ……どうやっていきなり現れた? 気配を消して? まさか、ここは俺のダンジョンだそんな事は不可能なはずッ!?


 隙を見せたせいで勇気から銃で撃たれてしまった。


「当たった!」


 腹や足が痛いというよりも熱い。弾丸で撃たれるとこんな感覚になるのかよ。

 

 ……ヒール。


「で? その程度の球遊びで俺に何ができるんだ?」


 痛みはまだある。だが傷はもう塞がっている。相手に優位だど思わせないためにもここで演技を続けろ。


「なっ!? 傷が!?」


 指をパチンと鳴らして重力を操る魔法を発動させる。初めて使うから、威力の調整をしなくては……


 それと同時に全員が地面にめり込んだ。


「な、なにが……」


「クソ……」


「体が……」


「ざっけんな!」


 4人とも地面に埋まって動けないかと思ったが、1人だけ立ち上がった。鬼瓦さんだ。


 体はぷるぷると震えていて、立っているのもやっとだろう。だけど彼の瞳からかなりの力を感じる。

 

「な、何が起こっているのでしょうか!? 天下五剣のパーティメンバーが突然倒れ込みました!」


 アナウンサーはこの部屋の外から実況をしている。まだ調整が難しいから範囲をこの部屋にしている為、入ってきた瞬間あの人達は死ぬだろう。

 冒険者の屈強な肉体だから耐えれているのであって一般人には耐えられないだろう。

 だからそのまま入ってこないでくれよ……


「その体で何ができる? 俺に殺されたいのか?」


「ハハッ……まさか」


 鬼瓦さんは何かを唱え始めた。すると赤色のツノようなものが鬼瓦さんから生えてきた。


「なんだそれは……」


「鬼人化と言って俺の切り札みたいなもんさ。さっきまでの俺とは……一味違うぞ!」


 消えたと思ったらすでに目の前で刀を構えていた。


 まずいっ!


 咄嗟に亜空間から剣を取り出して防御するけど、かなり重い。そして俺の剣にヒビが入り始めた。


「ッ!」


 転移魔法を使って後ろに避ける。

 俺がいなくなると刀はそのまま地面に振り下ろされてドゴーンとすごい音を立てた。辺りには床の破片や埃が舞う。


「なかなかやるじゃないか」


 正直言ってなかなかなんてものじゃない。死ぬかと思ってしまった。これはまずい事になったな……


「ようやく余裕が消えたな! 魔王!」


「ッチ」


 思わず舌打ちが漏れてしまう。


 こっちの剣じゃ相手の刀を止められないし……俺もレーヴァテインを出すしかないか。

 

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