第36話 戦闘準備

「はぁ、まさかあんな事になるなんて……」


 帰ってきた瞬間俺は頭を抱えた。


「おかえりなさいませ! あの人間ども魔王様に刀を向けるとはどういうつもりなのだ!」


「いや〜、あれは仕方ないと思うよ。太郎くんもかなり挑発してたし……」


「してないよ! どこをどう見たら挑発してたように見えるんだよ!」


「世界征服するのか? って聞かれた時笑ってたじゃん」


「それはもう悪い笑みだったでござる」


 あいなとオタメガはうんうんと頷いている。


「嘘じゃん!? そんなのできる訳ないでしょ、って意味を込めて鼻で笑ったんだけど……」


 側から見たらそう見えていたのか?


「いや絶対嘘じゃん。ネットでも太郎くんのこの反応でめちゃくちゃ盛り上がってたよ」


 おいおい嘘だと言ってくれよ。そんな事を思っているとあいながほらっといってスマホを見せてくれた。


 そこには魔王の笑顔怖いだとか、人類終了のお知らせだとか散々な書き込みがされていた。


「……そんなつもりはなかったんだけどなぁ」


 そんな事を話していると鬼瓦さん達がカメラマンを引き連れてダンジョンに入ってきた。


「魔王様」


「ああ」


 これからが本番だ。フィオナに攻略されて生まれ変わったダンジョンの力を見せてやる。


『ゴブリンか……』


 ダンジョンに入った鬼瓦さん達はゴブリンの姿を見つけると手信号で合図をした。

 すると華麗な連携を発動させてゴブリン達は瞬殺されてしまった。

 しかし肝心の鬼川さんは動いていない。


『流石天下五剣のパーティです! 魔物を一瞬で倒してしまいました!』


 あのアナウンサーがカメラに向かって話しているが、巻き込まれたのに着いてきたんだ……

 あんな目にあったら普通着いてこないだろ。ジャーナリズム精神か? なんにせよ逞しいな。


『テレビクルーの人達は俺たちの前に出ないでくれよ』


『分かりました! ですが、何故そこまで神経を研ぎ澄まされているのですか? 先程の魔物はあまり強く無さそうでしたが』


『ゴブリンの厄介なところは強さじゃない。罠を張るんだ、その罠も様々で足止め用から攻撃に繋がるものまで色々とあるんだ。下手をすれば毒針が飛んできて終わりなんてこともある』


 解説ごくろう。


 そして今回新しくした点がそこだ。ゴブリンを全階層に設置した。さらに罠部屋の数を増やしている。

 実際あそこまでの手練れなら罠に引っかかる事はないにしろ、神経は使うはずだ。

 そうすれば勝手に精神をすり減らしてくれるって寸法だ。相手は人間いくら集中しようが、集中力がそこまで続くとも思えない。


「おぉ! 作戦通りですな!」


「ああ、上手くハマればいいけど……どうなるかな……」


『きゃっ!? 何が起きているのでしょうか!?』


『しまったモンスターハウスだ! テレビクルーの人達を中心に守れ! 俺が前に出る!』


 そんな話をしていると鬼瓦さん達はモンスターハウスに入った。

 この部屋はキマイラを筆頭に獣型が沢山出てくる部屋だが……

 

 1人でやる気か? 鬼瓦さんは刀を抜いて魔物達を睨みつけた。

 ついにあの刀がどんな力を持っているか分かるぞ。


『ふっ! はっ! てやっ!』


「なっ!?」


 画面の中でキマイラ達はバタバタと倒れていく。


 なんで致命傷でもないのに、魔物達が死んでいるんだ? ちょっと足を掠ったとかそんなレベルだぞ?

 切る位置は関係ないのか? まさか当たれば即死なんて言うんじゃないだろうな……だとしたら相当不味いぞ。


 魔物達をいくらぶつけても彼らを倒すことができない。


「これが鬼丸国綱の能力ですか……」


「噂以上だね〜、切られた魔物が簡単に死んじゃってるよ。これは不味いかもね」


「むぅ……流石は伝承がある天下五剣でござる。規格外でござる。太郎殿のレーヴァテインとまで言わなくても脅威なのは間違いないでござる」


 三者三様の感想だ。


「それは当然だろう。ですが魔王様どうしますか? 魔物達では役にたたないかと……」


「本当はオタメガに影から攻撃して貰いたかったけど……」


 オタメガの忍術? 魔法? の力で影を移動できるのだが、この能力を見てしまったらどうしてもリスクを考えてしまう。

 

「みんな、今からそれぞれの家に転移させるから待機していてくれないか? フィオナはオタメガのラボにでも居てくれ」


 このメンバーの中だとあいな以外があの刀の特攻対象だと思うし、こうするのが1番だろう。


「待ってください魔王様! 私達は!」


「ごめん、今回は俺のわがままを通させてもらうよ」


 3人の返事を聞くことなく、俺は転移魔法を発動させる。


「天下五剣達の道を作ってやれ」


 そして魔物達に指示を出す。


『何が起きてるんだ!?』


『っ! 分からない』


『みなさん見てください! 魔物達が両壁に隊列を組んで立っていてます! 何が起きているのでしょうか!?』


 魔物達だってリポップするとは言え、生きているんだ。無駄に犠牲になる必要なんてない。


『攻撃してくる様子がない?』


『まるで道のようね』


『……魔王の仕業か。乗ってやろうじゃねぇか。テレビクルーのみなさん。俺達から絶対に離れないでくださいね』


 どうやら来てくれるようだ。無駄な血を流さないで済むようで良かった。

 さてと……俺も準備しとかないとな。


「この部屋の片付けしといた方がいいよなぁ……」


 流石にベッドとか机とか生活感が見えすぎている。とりあえず亜空間にしまっておこう。

 椅子だけあればそれっぽいよな……


 はぁ、やだなぁ。あの人達と戦うの。

 

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