第30話 理由

「……頑張れお爺ちゃん」


 車の外に出て、車の影に隠れてお爺ちゃんを見ているとお爺ちゃんがあいなに話しかけていた。

 話しかけられたあいなは誰もが見惚れるような笑みを浮かべて話している。


 しばらく話すとお爺ちゃんが色紙を渡してあいながサインを書いていていた。


 話が終わったお爺ちゃんはルンルンと軽やかなステップを踏んで帰ってきた。


「ありがとうございます、田中さんのお陰でサインを貰うことができました!」


 戻ってきたお爺ちゃんが嬉しそうにサインを見せてきた。そこには綺麗な字で高松さんへと書かれていた。


「よかったですね!」


「はい」


「じゃあ、俺はそろそろ帰りますね」


 これ以上あいなを待たせるわけにはいかない。


「はい、ありがとうございます! もし、これから田中さんが困ったことがあれば私にご相談ください。私でできることなら協力しますので」


 優しいけど組長さんに頼ってしまったら取り返しのつかない事になりそうだ。


「あっ、はい。もし機会があればお願いしますね」


「いつでも高松組へいらしてくださいね」


「ありがとうございます……じゃあ俺はそろそろ戻りますね」


 俺はお爺ちゃんに頭を下げてからあいなの元へと向かうのだった。



「お待たせ、待った?」


「待ったよ。私を待たせてまでの用事って何があったのかな〜?」


 後ろからメラメラと火が見えるような気がした。


「はっはは、困った人の手伝いというか……なんというか……」


 あのお爺ちゃんの事を伝えてもいいけど、お爺ちゃんの印象が悪くなったら嫌だしやめておこう。


「……知ってるよ。さっきのお爺ちゃんにアドバイスしてあげたんだってね」


「えぇ!? あのお爺ちゃん喋ったの!?」


 なんでそんな自分が悪く思われるかもしれない事を……


「うん。デート中にごめんなさいってね〜。……太郎くんに質問があるんだけどいい?」


「え? いいけど……」


 あいなは真剣な表情をしている。なんかやばい事でも考えているのだろうか?

 もしかして、俺が魔王って事をバラすとか? いやいや、あいながそんな事をする筈ない。……なんだろ?


「なんで人に親切にするの? 私は私の事を覚えていて欲しかったから、もっと言えばチヤホヤされたかったからなんだけど太郎くんってそういうタイプじゃないよね」


「なんでって言われても考えた事もないし、そこまで親切にしているつもりじゃないんだけどなぁ」


 うん。成り行きでそうなっただけで、別におせっかいをやきたいとかそういう思いは一切ない。


「……だって小田くんの事でもそうでしょ? 噂で聞いたんだけど、太郎くんは小田くんの夢を褒めたんだってね。普通の人はそんな事しないよ。……もしかして魔王様だから小田くんが可愛い女の子になる未来が見えていたから優しくしたの?」


「未来なんて見えてるわけないじゃん」


 もし、未来が見えてたなら俺があいなのハニートラップ? に引っ掛かるはずもないだろう。

 

「じゃあなんで? 今日の私のことでもそうだよ。別に気を使って遊びに連れて行く必要もなかったじゃん。太郎くんには私を脅して従わせるだけの力だってあるんだから」


 俺のスキルと魔法、全てを使えばあいなの言ってることをするのは簡単だけど……


「んー。……別にさ、俺は自分の事を特別だ! なんて思ってないしさ。魔王の力を手に入れる前まではやることなす事全部だったんだよ。ってこれは魔王の力を手に入れてからも一緒か」


 自分で話していて何が言いたいのか分からなくなってきた。でもあいなは黙って俺の話を聞いている。


「オタメガに親切したってさあいなは言うけどオタメガの夢……の内容は置いといて、あそこまで自分の好きな事を堂々と言えるって言うのが凄いなって思うんだよ。……うん。だから俺はオタメガの夢を応援したんだと思う」


 俺がオタメガに応援の言葉を吐いた理由が言葉に出して分かったような気がする。

 あれ? でも俺何言ってんだろ。あいなの質問への回答になってないよな?


「……で、俺が人に優しくする理由だったよね。それは簡単だ。俺が弱いからだよ。1人じゃ何もできないくらい弱いから助け合いが大事だと思ってるんだ」


 喋っていてなんとなく頭の中が纏った。


「そっか……でも太郎くんは本当に自分で弱いと思ってるの?」


「うん。今だってフィオナにオタメガ、それにあいなのお陰で魔王様プレイ出来てるわけだしね」


 あいなの目を見ながら言った。しばらく目があったまま沈黙が続く。


「ふ〜ん。なるほどね。なんとなく太郎くんが魔王様である理由が分かった気がするよ」


「え? この質問で? 俺魔王らしい事一つも答えてないよ?」


「魔王様って聞こえは悪いけど……魔王様だって王様なんだよ?」


「ん? どういう……」


 俺が悩んでいるとあいなは立ち上がり歩き始めた。


「教えてあげな〜い! これからも頑張って支えるからこのままの魔王様でいてね!」


「え? 俺、魔王嫌なんだけど……ちょっと聞いてる!? あいなさーん!」


 言うことを無視して歩くあいなに追いつくために俺は走り始めたのだった。


 そして日が落ちるまで俺とあいなはデートを続けるのだった。

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