第29話 強面

「にしてもあいなって人気なんなんだなー」


 あのよくわからない店から出て歩いていたのだが、あいなはすごい話かけられている。

 その生活が羨ましくはないけど、興味がないと言えば嘘になる。


「えへへ〜。見直しちゃった?」


「見直すも何もあいなの事は凄いと思ってるよ。そのせいでこの短い間に頼み事ばっかりしちゃったし」


「まあ頼られるのは嬉しいよ。でも頼るならその分甘えさせて欲しいなぁ……なんて」


 あいなの上目遣いが俺のハートを撃ち抜いた。


 うっ、可愛い。フィオナの上目遣いよりも完璧だ。やっぱりあいな恐ろしい子。自分が可愛い事を理解しているわ!


「は、はい! 勿論です!」


「なんで敬語なの〜? それにちょっと顔赤いよ〜?」


 うっ、恥ずかしい。

 でも、やられてばかりじゃ悔しい。やり返してやる!


「そ、それはあいなが可愛かったから!」


 多分俺の顔は真っ赤なんだろう。頭が熱くてフラフラする。でも、あいなのペースにさせてやるもんか。


「そう? どこら辺が可愛いの〜?」


 あいなは顔色一つ変えずにニヤニヤとしながら返してきた。

 なんて女だ。可愛いが聞かないだと……逆にこっちが恥ずかしくなってきた。


「あ」


「あ?」


「あいなのばかー!」


 俺は顔を真っ赤にしながら裏路地に逃げるのだった。


「ちょ、ちょっと! 太郎くんー! 太郎くんー!?」


 あいなの言葉を無視して全力疾走だ。



「は、恥ずかしい。くそぅ、高校生活での異性に対する差が確実に出てしまった。俺がイケイケのプレイボーイならこんなことには……」


 体操座りをしてごちる。

 こんなのってあんまりだよ。


「あいなちゃんと楽しそうに喋っとなぁ、兄ちゃん」


「うるさい! 今1人でブルーに浸ってんの! って、え?」


 なんで俺は会話をしているのだろうと思い顔を上げるとそこには強面の男達がいた。

 いつぞやのマスラオさんよりも体は小さいが顔は怖い。


「うるさい? それわしらに言ってんのかい?」


 そしてその中でも1番顔の怖いお兄さんが顔を近づけて凄んできた。


 ひぃぃぃ! ご、ごめんなさい〜!!


「う、うるさいぞ! 俺の馬鹿! ここに人がいるのに声を出してるんじゃない! 馬鹿! 馬鹿!」


 俺はなんとか口と手を動かして自分の頭を自分の手で叩く。


 こ、こえぇよ。こんな昭和のヤクザみたいな人達がなんで令和の時代にいるんだよぉ!


 魔法とスキルがあれば、こんな奴らを倒すのは簡単? 馬鹿言うな! 魔王状態じゃないのに魔法なんか人に使える訳ないだろ!


「ほぅ……わしらに行った訳じゃないんかい……」


「も、勿論ですよ! ただの高校生である僕がお兄さんにうるさいなんて言える訳ないでしょ!」


「そうかい。それはええんやけどな。ちょっとお願いがあるんですわ」


 お兄さんはお願いと言う部分を強調している。

 俺はもしかして解体とかされちゃうのだろうか。さっきもあいながどうこう言ってたし、やばいぞ。


「は、はひ! なんでしょうか!?」


「実はな……うちの親父があいなちゃんの大ふあんでな。あいなちゃんからサイン貰いたいらしいんやけど、話かけ方が分からんらしいんや。やから兄ちゃん。あいなちゃんとの喋り方を親父に伝授してくれへんか?」


「お願いします!」


 後ろの若い人達が一斉に声を出して頭を下げた。


 親父って多分親父と書いて組長って呼ぶ人達だよなぁ。にしても組長までファンにしちゃうあいなってやっぱり凄いんだな。


「それなら大丈夫ですけど……」


「おぉ! ほんとか!? わしの名前は高松組若頭の佐伯ちゅうんやよろしくな! 親父なら近くの車に待機してるから案内するわ」


 若頭って結構くらいの高い人だよな……


「ちょっと太郎くんに何してるのかな〜?」


 瞬間出すの聞いた声が聞こえてきた。声の主はあいなだ。

 そしてその近くには組員さんらしき人が2人ほど倒れていた。

 あいなの目を見ると今すぐにでも襲ってきそうな野獣の目をしている。


「あいなちゃん!? ちょ、ちょっと待ってくれ! わしらはぐはっ!?」


 一気に距離を詰めたあいなの蹴りが佐伯さんに刺さった。


「カシラ!?」


 組員達が驚く。


「次は君たちだよ」


「ス、ストッープ! 俺は大丈夫だから!」


 このままじゃ全員やられてしまうと感じた俺はあいなの前に立つ。


「……え? 本当に大丈夫なの?」


「お、おう! この人達顔は怖いけど、そこまで悪い人……じゃないかもしれないけど、今回俺に話かけてきたのは理由があるんだ」


 悪い人じゃないとフォローしようと思ったができなかった。


「理由? どういう理由なの?」


 あー、これ言わない方がいいよな……


「そ、それは言えないんだけど……少し待っててくれない? 10分だけでいいから!」


「……本当に大丈夫なの?」


「勿論! その……あいなには言えないんだけど、後で話すから!」


「……む〜。分かったよ。じゃあすぐに話終わらせてよね〜。それと……そのごめんなさい」


 倒れている人と佐伯さんに向けて謝罪をするあいな。


「お、おう。わしらも紛らわしいからな。謝らんとってくれや」

 

 この人頑丈すぎない? あの蹴り喰らったのにもう立ってるよ。


「じゃ! ちょっとこの人達と行ってくるから!」


「は〜い。なるべく早く帰ってきてね」


「おう!」


 あいなは路地裏から去っていくのだった。


「なかなか強烈な蹴りやったのう。親父が惚れる理由も分かったわ」


「……あの蹴り受けて、平気ってすごいですね」


「鍛え方がちがうけんのー! ガハハ、ガハッ!」


「佐伯さーん!?」


「カシラー!?」


 倒れた佐伯さんを俺達は取り囲むのだった。





「初めまして、高松組組長の高松章三と申します」


「あっ、ご丁寧にどうも田中太郎です」


 車に案内されるとそこには可愛いらしいお爺ちゃんが居た。

 縁側でお茶を飲んでいそうな雰囲気のお爺ちゃんだけどこの人は本当に組長さんなのだろうか。


「それでは親父に失礼のないようにお願いしやす」


 組員さんが車のドアを閉めてくれた。俺はぺこりと頭を下げておく。


「それで、あいなに話かけたいんでしたっけ?」


「はい。恥ずかしながらこの年齢でファンになってしまったものでして……」


 お爺ちゃんはどこか申し訳なさそうに笑いながらそう呟いた。


「年齢なんて関係ないですよ! 大事なのは思いです!」


 って、何言ってるんだろ俺。

 まあでも実際年齢は関係ないと思う。俺の将来の夢は公務員だけど、お爺ちゃんになっても趣味のゲームは続けたいと思ってるし。


 それに今日あいなに話しかけてきた中には子供だっていた。別にお爺ちゃんだからダメという事はないだろう。


「ありがとうございます。大事なのは思い。いい事を仰いますね」


「あ、ありがとうございます。ところで会って何を話したいとかあるんですか?」


 組長さんに褒められるとはなんか嬉しい。


「ただ、いつも応援しています。これからも頑張ってくださいと伝えたいのです。最近魔王という輩にやられて落ち込んでいないか心配で……魔王がもしダンジョンの外に来ればわしらなりの返しをするんじゃが……」


 ひえっ!? 急に怖くなったよ! このお爺ちゃん! 口が裂けても俺が魔王なんて言えなくなっちゃったよ!?


「あぁ、失礼しました。つい癖で」


 こえぇよ! 脅すなよ!


「い、いえ……そうだ! どうせならサインも貰いましょうよ!」


 今日色紙を持ってきた人にはサインを書いていた事を思い出した。

 この人があいなを応援しているのは本当みたいだし、どうせならサイン貰えた方がいいだろう。


「えっ!? 迷惑になりますよ……」


「迷惑なんてそんな事ないですよ! むしろあいつはそういうの喜ぶタイプですよ!」


 あいなは誰かに覚えてもらえると喜ぶだろう。普通の人はサインを面倒くさがかもしれないがあいなは別だ。


「本当ですか?」


「勿論ですよ! あとあいなと喋る時はそのままの思いを伝えてあげた方がいいと思います」


 変に持ち上げられたりするより、純粋な評価を喜ぶタイプだし、あいなはそういう事をすぐ見抜くだろう。


「本心を……」


「はい。いつも見ていてファンなんですと素直に伝えてあげた方が本人も喜ぶと思います!」


「なるほど……」


「ちょうどあいなは今1人ですし、声をかけるなら今だと思いますよ!」


 多分向こうは気づいていないが、この車からだとベンチに座って携帯を触っているあいなの姿がよく見える。


「…………」


 あいなの事を見ながら少し考えているようだ。


「色紙とかってありますか? ないんだったら俺買ってきますよ!」


「実は……もしかしたらと思って持ってきているのです」


 お爺ちゃんは持っていた鞄に手を入れゴソゴソすると色紙とペンを取り出した。


「勇気持ってください! 絶対大丈夫です! あいなはファンを無下に扱うことなんて絶対にしませんから!」


「分かりました! ありがとうございます! 勇気を持って声をかけてきたいと思います!」


「俺もここから応援してるので頑張ってください!」


 お爺ちゃんは俺の声援に頷いて、あいなの方へ歩いていくのだった。


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