第21話 成長

「敵に触れずとも制圧する……お見事でした! 流石魔王様ですね!」


 うーん恥ずかしい。フィオナは褒めてくれるけど人前であんな事をしたって考えると……

 穴があったら入りたい。でも一オタクとしてはああいう格好いいことに憧れる気持ちもある。


 いや、ダメだ。最近凄い力が手に入ったからって少し調子に乗っている。


 俺の夢はなんだ? 安定している公務員だ。


 よし、自己暗示完了。


「うん。ありがとう。……ダンジョンに入って早々だけど転移でそのままボスの階層まで行こっか」


 今の俺は魔王だ。万が一転移魔法を誰かに見られたとしても問題ないだろう。


「あっ、魔王様それは無理です」


「えっ!? 無理なの?」


「はい。ダンジョン内では何故か不正が出来ないようになっているのです。先代の魔王様がズルをして転移魔法を使ったら……」


「使ったら?」


「それはもう恐ろしいことが起きたとか起きなかったとか」


「なんだよそれ! 起きてないのかもしれないじゃん!」


「へへっ、実は私も聞いた話でして……実際に見たことはないのです!」


「なんでドヤってんだよ……」


 少し恥ずかしそうにした後ドヤ顔をするフィオナ。

 

 なんだこの可愛い生物……って、そうじゃない。


 まあでもそういう噂話があるって事はやめといた方がいいか。

 それにしても何処からどこまでが不正になるなんだ? レーヴァテインとかも立派な不正武器だと思うんだけどなぁ。ボスとか即死だったし。


「おっ、魔王様。ミノタウロスが居ますよ」


 そんな話をしながら歩いていると前方に上半身が牛で下半身が人の化け物がいた。

 そしてその手には斧が握られていた。あの斧……マスラオと同じ物みたいだ。

 どうやらマスラオはミノタウロスの武器を使っているらしい。


「うわっ、なんか興奮してない?」


「そのようですね。魔王様、私が戦ってもいいのですが今回は魔王様が戦ってみてはどうでしょうか。日頃鍛錬している成果を見るにはいい機会かと」


 実はダンジョンに居て暇な時はフィオナに剣術を教えてもらっているのだ。

 レーヴァテイン頼りでは情けないと思って俺からお願いするとフィオナは二つ返事でOKしてくれた。


「分かった。……それにしても初めてダンジョンに来た時を思い出すね」


 一月程前の話だが、えらく昔の話に感じる。最近忙しすぎるせいかな?


「そうですね! ですがあの時よりも魔王様は強くなっています。敵も強いですが、魔王様の相手にはならないでしょう」


 俺は一歩前へ踏み出して異空間から冒険者が忘れていった刀と小刀を取り出す。

 そして右手に刀左手に小刀を持つ。気分は宮本武蔵だ。これぞ二天一流ってね。


「モォーー!!」


「………」


 相手の動きを見極めて、いなしてきる。簡単だ。いなして……きる?


 遠くから走ってきたミノタウロスだが、近づくにつれてその大きさが顕になっていく。

 同じくらいだと思っていたが、俺の倍は身長がありそうだ。


「ヒィ!? デカすぎ!」


 マスラオさんの比ではない。


 俺は怖くなり左手の小刀をミノタウロス右膝に転移させる。


「モォ!?」


 体制を崩したミノタウロスはそのままバランスを崩して倒れてちょうど俺の横で止まった。


「ふっ!」


 ミノタウロスの首を持っていた刀で斬る。


「もぉ……ぉ」


 ミノタウロスは首と胴体が分かれた状態で光になっていき、鼻についていたリングと斧がその場に落ちた。


「……お見事ですが、これでは修行した成果が分からないかと……も、勿論これも魔王様の力ですからね! これが悪いとは言いません!」


 フィオナは微妙な顔をしながら褒めてくれた。しかもフォロー付きで。


 で、デジャヴだ。前回もこんな感じだったような気がする。


「そ、そのごめん! ちょっと圧にびっくりしちゃって……今度はちゃんとするよ……うん」


 地面に落ちた小刀とリング、斧を回収して歩き出す。


 この気まずい空気に耐えられなれなくなってしまったからだ。



「ここでいなして、斬る!」


 少し時間が経ってから俺達は2階に来ていた。今度の敵はデュラハンだ。

 最初の方は馬との騎士の連携技に悩まされていたが、騎士を狙うのではなく先に馬を潰した方がいいと気づいてからは随分と楽になった。


「もうこの辺りの敵は相手になりませんね」


「そんな事ないよ。これでもいっぱいいっぱいだよ」


 落ちていた蹄鉄を拾って異空間に放り込む。


「それにしても魔王様は成長速度が凄まじいですね。一月前まで剣を持った事ない人の動きではありませんよ!

 もしかしたら魔王様の力が強くになるにつれて記憶が呼び起こされているのかもしれませんね」


「記憶の方は全くだけど、確かに成長速度は早いかも……魔王の力が関係しているのか俺自身の強さなのか……」


 自分で言うのもなんだが、成長速度は早いと思う。でも元々運動神経がいい方でもないし……不思議だ。


「そうですか……それより、成長の確認は出来たのでレーヴァテインを出してもいいのでは?」


 確かにレーヴァテインを持てば道中が楽になるんだけどなぁ。


「もし人と遭遇した場合石化能力が暴発する可能性が高いからボス部屋までは使わないつもりなんだ。というわけでフィオナ、あとの戦闘は……」


「お任せください! このフィオナ魔王様の剣となり、魔王様に剣を向ける愚か者は粛清して見せましょう!」


 食い気味に答えある胸を前に突き出して宣言するフィオナ。


 とても頼りになるな。

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