第20話 ロールプレイ
「ここが渋谷の……」
渋谷ダンジョン前までやってきた俺達だが、渋谷のダンジョンはかなりでかい。
全部で10階くらいはありそうだ。
確かにこのダンジョンの規模なら八王子のダンジョンは初心者向けになる訳だ。
「冒険者の質もかなり高いようですね、魔王城に来ている冒険者達とは装備の質が違います」
確かにフィオナの言う通りだ。
俺達のダンジョンも最初の時に比べるといい装備をした人が多いが、ここら辺いる人達の装備はそれよりもゴツい。
全部ダンジョン素材から作った武器や防具なのだろう。
「確かにね」
「ちょっと待ちな。そこのお2人さん」
ダンジョンに入ろうとしていると4人組のパーティに止められてしまった。
声をかけてきたのは鉢巻が特徴的な青色の髪のお兄さんだ。
後ろにいる人達も歴戦の猛者っぽくてかっこいい。
「は、はい。俺達ですか?」
2人組は俺達しかいないけど一応確認だ。確認は大事だからな。これで違っていたら恥ずかしすぎる。
フィオナは無言で一歩前に出た。
「そうだ。見たところ防具もつけてないし、装備もない。そんな状態でダンジョンに入るなんて自殺行為を見過ごすわけにはいかない」
しまった。これが普通だからそのまま入ろうとしていたが、普通ダンジョン攻略は装備をガチガチに固めてから来るものだった。
俺は私服だし、フィオナも普段のドレスではなく露出度の高い私服だ。
普通の人が見たらこんな状態でダンジョン攻略なんて出来るわけないって思われる決まっている。
「貴様ら、この方をどなとムムッー!? 何をするのですか!」
俺はフィオナが魔王様という流れだと思い、フィオナの口を無理矢理塞いだ。
だが、俺が腕力で勝てるわけもなく簡単に引き剥がされてしまった。
「す、すみません! 俺達ダンジョンに興味があって……ほら、最近有名じゃないですか! 魔王が出たとか!」
咄嗟に思いついた言い訳をかます。
「はぁ、お前達も魔王に釣られた口か。最近多いんだよな。いいかダンジョンに魔王がいるのはあくまでも噂だ。それに……いや、兎も角お前達は帰れ」
「は、はい! 失礼します!」
俺はフィオナの腕を掴んで、無理矢理この場をさるのだった。
そしてお兄さん達はそんな俺の姿に呆れたような顔をしてからダンジョン内部に入るのだった。
「はぁ、完全に忘れてた。俺達私服じゃん」
少し離れたベンチで空を見上げながら反省する。
「魔王様! 何故ダンジョンに入らなかったのですか! 奴らのいう事など無視すれば良かったじゃないですか!」
「そういう訳にはいかないだろ? あの人達だって俺達が心配で声をかけてくれたんだし」
うん。スルーする人が多い中態々注意してくれたし、多分あの人達はいい人だと思う。
注意するのにも意外と労力が必要なのだ。
「心配などされる筋合いがありません! それを勝手に奴らが……」
「筋合いって……フィオナ達、魔族は助け合いとかしないの?」
「我々は人間達のように弱くありませんからね! 基本何があっても自己責任です! 協力する時があるとすれば魔王様から命令した時ぐらいですよ。
……あっ、勿論魔王様は弱くないですよ!」
最後にハッとしたのか慌てたように言い訳を始めた。
そうなのか。知らなかった。
「フィオナの言う通り人間は弱いから助け合うんだよ。まあ、それに漬け込んで悪い事をする人もいるけど……」
「弱いから助け合う……ですか?」
「そっ。でも困ったなぁ。あの人達がダンジョン内部にいるならこのまま行く訳にも行かないし……」
「……それでしたら魔王様が魔王様になって行けば良いのでは?」
「魔王様が魔王様?……あっ」
何を言っているんだと思ったけど、そういうことか。
ふむ。確かにグッドアイデアかもしれない。んー。でもそれだとバレるリスクが……
いや、どちらせよあいなのチャンネルで放送されてしまったし大丈夫か。
「ナイスアイデア! それで行こう!」
「ありがとうございます! 魔王様!」
「なんだ!?」
というわけで転移魔法を使ってやってきました渋谷ダンジョンの入り口まで。
俺とフィオナは着替えを済ませて魔王モードになっている。
そして俺達が突然ダンジョン入り口に現れたせいで、辺りがパニックになってしまった。
どうしよう。全員がこっちを見ている。
「アイツ魔王じゃねぇか!?」
「どうやって急に!」
「魔王って本当にいたんだ……」
色々言われているがとにかく無視してダンジョンに入るか。それが1番いいような気がする。
「待て! お前魔王だろう! 何をしにここにきた!」
一歩踏み出すと周囲にいた誰かが声を出した。
「さあな? 当ててみろ」
それだけ答えて進もうとすると今度は巨大な斧を持った大男が立ちふさがった。
「へへっ、テメェが最近世間を騒がせている魔王だな! テメェのその面をこのマスラオ様が暴いてやるぜぇ」
ますらお? そんな名前の人いるんだ。
にしてもレーヴァテイン持ってなくて良かった〜。もし持っていたらこの人は今頃石像になっている。
「そのような玩具で何が出来る?」
「はっ! テメェの体を引き裂くぐらいは出来るだろぉよ! ……あっ、あれ?」
マスラオが斧を振り下ろしてきたが、その斧は俺に当たる寸前で消えた。
何故かというと俺が転移魔法を使って斧を空高くに転移させたからだ。
管理権限って本当に凄い。少し前まで普通の男子高校生だった俺が今では魔法が使えるのだから。
「ふっ、だから言っただろ? その程度で何が出来るのかと……そういえば、空模様には気をつけた方がいい」
「は? 何を言って……っ!?」
空から影が近づいてきて異変に気付いたマスラオが上を向くとすぐに横へと飛び退いた。
そして先程までマスラオがいた場所には斧が大きな音を立てて突き刺さった。
「何がどうなったんだ!?」
「これが、魔王……」
「すげぇ……」
周りはすごい大騒ぎだ。
うん。魔王ロールプレイも問題ないようだ。
「て、テメェ! なにしやがった!」
マスラオはまだ突っかかってくるつもりだ。
「立たない方がいい。もし立つなら斧以上の物が降ってくることになるぞ?」
俺がそういうとマスラオは悔しそうにこちらを睨みながら立ち上がらなかった。
魔王ロールプレイって意外と楽しいかも……っていかんいかん。静まれ俺の厨二心。
「いくぞ」
「はっ」
俺とフィオナはダンジョンの中に入っていくのだった。
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