第17話 デート

「魔王様! 見てください! とても美味しそうな食べ物がありますよ!」


 色々あったが、土曜日になり俺は約束通りフィオナと遊びに来ていた。

 ダンジョンの方はかなりの冒険者が攻めてきているが、あいなが見てくれている。もしも危なくなったら俺に電話を入れるように言ってあるので問題ないだろう。


「クレープ屋かー。並んでいるみたいだし並んでみるか……それとここでは魔王様はやめようね」


 普段から呼ばれ慣れているせいで感覚が麻痺していたがここで魔王様と呼ばれたらバレるかもしれない。


「はい! わかりました! 魔王様!」


「全然分かってねぇじゃん!」


 って、みんなに見られている気がする。周りを見渡すと視線がこちらを向いていた。というよりもフィオナを見ていた。


「………」


「魔王様どうかしましたか?」


「いや、なんでもない」


 よく見なくてもフィオナは美女だ。

 最近は残念な部分ばかり見ていたせいでそんなに思わなかったけど、黙っていれば綺麗なんだよなぁ。


「……そういえば、ダンジョンに住み始めて居心地は悪くない?」


「急にどうしたのですか?」


「や、親が帰ってきたから追い出したけどあんな所に住んでて嫌じゃないのかなって」


 一応必要なものを揃えては見たけど、はっきり言ってあそこにはプライベートが透け透けだ。それにずっとダンジョンに居るせいで他の事とか考えられないだろうに。


「嫌なわけがありませんよ! 魔王様に必要な物は揃えていただきましたし、私は好きであそこに住んでいるのです!」


 それならいいけど……


「魔王様こそ困った事はありませんか? 何かありましたらすぐに教えてください。私に出来る事でしたらなんでもしますので」


 困ってることか。最近はあいなが事あるごとにボディタッチをしてくることが悩みの種だ。男子高校生にあの体は毒が強すぎる。


 とはいえ、これを相談してもフィオナじゃ解決できないだろう。あっ……


「ダンジョンとかって大きくできないの?」


 最近ZPもかなり溜まってきているのだが、ダンジョン自体が狭すぎてガチャを回すことができない。

 今でさえ時々だが、違う魔物達で小競り合いみたいな事があるのに、これ以上増やしたら自滅してしまいそうなのだ。


「それなら可能です!」


「えっ、出来るの!?」


 出来ると思ってなかったのでびっくりだ。


「はい! 他のダンジョンを魔王様が攻略すれば、吸収する事ができますよ!」


「げっ、他のダンジョンも攻略しないといけないの?」


 嫌なんだよなー。剣持ってダンジョン入るの。攻撃とかされたら痛そうだし。


「大丈夫ですよ! この私がついているので、魔王様は見ているだけで終わります!」


 それはそれで情けない気がする。


「次、お待ちのお客様〜!」


 そんな話をしているとついに俺達の番が来たようだ。俺とフィオナは注文をするのだった。



「ん〜! 人間はゴミですが、人間の作る料理だけは評価に値しますね!」


 俺はチョコバナナ、フィオナはイチゴのクレープを食べながら街を歩いていた。


 さらっと人をゴミ扱いするとはフィオナの人間嫌いは相当な物だ。


「へー。フィオナって食べる事が好きなの?」


 ゴミ扱いを華麗にスルーして、質問をする。


「はい! それは勿論! 復活してからは色々な物を食べてきました! ところで魔王様のクレープも美味しそうですね」


 フィオナは俺のクレープを見て涎を垂らしていた。

 フィオナは意外と食いしん坊のようだ。そういえば、家で食事をとっていた時も沢山食べていたような……


「まだ食べてないから一口あげるよ」


「いえ! 申し訳ないですよ! 魔王様もまだ食べてないのに……」


 俺がクレープを差し出すと首をブンブン横に振りながら拒否してきた。


「別にいいって、ダンジョンの事でフィオナにはいっぱいお世話になってるし、気にしないで」


「わ、私魔王様に一生ついていきます!」


 涙を流しながらチョコバナナを頬張るフィオナ。


「だから重いって……こんな事で気にしなくていいから」


「太郎殿〜!」


 そんな事を話していると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 オタメガだ。


「オタメガ? なんでこんな所に?」


 普段ラボから出ないオタメガが街にいるとは珍しい。


「拙者がここにいる理由は……って太郎殿。そちらの女性は誰でござるか?」


 げっ、まずい。なんで説明しようか。


「この人間とは知り合いですか?」


「あ、ああ。俺の友達だよ。……えっと、オタメガ」


「太郎殿! 見損ないましたぞ! 桜木殿という彼女がいながら褐色巨乳美女とデートするなど言語道断でござる!」


「いや、あいなは彼女とかじゃないって何度も言ってんじゃん」


「あいなが彼女!? 魔王様! あいなといつの間に番になったのですか!?」


「だから違うって! お前ら話を聞けよ!」


 俺が叫ぶと周りにいた人がこちらを見てきた。俺はその視線が気まずくなり、2人を連れて近くの公園に移動するのだった。

 

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