第16話 甘々?
「それじゃあ俺と桜木さんは学校に戻るけど、もし何かあったらすぐに桜木さんの番号にかけて知らせてくれ」
ネットニュースで貼られた事によって今日は冒険者が沢山くると思った俺は先程、桜木と連絡先を交換したスマホを机の上に置いた。
フィオナは覚えが早く操作方法をすぐに覚えてくれた。
にしてもクラスのマドンナの連絡先を手に入れたのに全然嬉しくない。なんでだろう。
「はっ、分かりました!」
「……留守番ばっかでごめん。今度の休みは遊びにでも行こうか、嫌じゃなければだけど……」
よくよく考えてみればフィオナがダンジョンの外に出ているのを見たことがない。
申し訳なくなった俺は謝罪をした。そしてフィオナが嫌じゃなければ俺と一緒に遊んでくれたらなと思う。
「……っ! 光栄です! 私の事をここまで心配してくれて……私は、私は言葉もありません……」
泣きながら言われると超申し訳ないからやめてほしい。
「……田中様、早く移動した方がいいと思います〜。時間が時間ですし」
少しむすっとした様子で桜木が声をかけてきた。腕時計を見ると9時になりかけていた。
やばい、授業が始まる。
「やばっ、じゃあ行こっか。俺は男子トイレ桜木さんは女子トイレに転移するから! あと敬語と様付け禁止で! 怪しまれるから!」
「分かり……分かったよ〜。じゃあお願いね、田中くん」
良かった。ここに関してはフィオナよりも聞き分けが良くて助かる。クラスの前で桜木に敬語を使わせていたら間違いなくみんなから殺されてしまう。
「よし……転移!」
そんなこんなで俺と桜木は転移したのだが……
「……桜木さん。何故、田中くんと机を合わせているのですか?」
先生から注意されてしまった。
そして俺は隣を見ると何故か目と鼻の先に桜木がいた。なんなら桜木と肩がくっついていて、ドキドキしてしまう。それに桜の花のようないい匂いがする。
「教科書忘れてきちゃいました〜」
桜木は普段のゆるい感じで言うが、周りの男どもの視線が凄い。目力だけで殺されそうだ。
「そ、そうですか。それならそこまでくっつく必要はないのでは?」
その通りだと思います。
「ん〜。田中くんの事が好きなのでくっついてま〜す」
その言葉にクラス全員の椅子がガタッと動き男達の後ろからドス黒いなにかが見えるような気がした。
「そ、そうですか……」
先生は呆然としたようにそう言って授業を再開した。
「さ、桜木さん?」
「な〜に?」
ガチ恋距離で可愛らしく首を傾げる桜木。
落ち着け俺……この子は承認欲求モンスターの成れの果てだ。
それに本当に俺が魔王という事を黙っていてくれると確定したわけじゃない。相手のペースに乗せられるな……
「これ以上やるとバレるかもしれないから、離れてくれる嬉しいかも……」
「……私とくっつくの嫌?」
上目遣いでそんな事を言ってきた。
嫌じゃないです! そう言いそうになった口を押さえて深呼吸する。
「嫌とかじゃなくてバレるかもしれないでしょ?」
「じゃあこれからはあいなって呼んで」
「あ、あいな……頼むから離れてくれ」
「……寂しいけど、分かった。離れるね」
俺、この子にだったら暴露されてもいいかも。そんな事を考えながら授業の続きを受けるのだった。
「どういうこと!?」
授業が終わるとやはりというかなんというかクラスの全員が俺とあいなの席にやってきた。
男子は全員俺を睨んでくるし、怖くて顔を上げる事ができない。
そんななか、みーこが口を開いた。
「どういうことも何も。私が田中くんの事を好きってだけだよ〜」
そういうと嘘だッ! とかあいなちゃんがとか阿鼻叫喚だ。女子からはこいつの何がいいの!? とか聞こえてきてシンプルに心にダメージを負った。
「そそそ、それってその恋愛的な意味で……?」
みーこは顔を真っ赤にさせてそんな事を聞いてきた。意外だ。恋愛とかそういうの滅茶苦茶経験してそうなのに……
「そうだよ〜……さっき告白したんだけど振られちゃった」
こちらを向いて小悪魔的な笑みを見せたと思ったら爆弾を投下しやがった。
「はー!?!?」
クラス全員が驚いたような声を出す。
「テメェ! あいなちゃんに告白されて振るとか馬鹿か!?」
喋ったこともない生徒に胸倉を掴まれぐわんぐわんされた。
「やめて……くれると嬉しいな〜。田中くんには今、私の事を好きになってもらってる最中だから〜」
やめてと言った瞬間すごい殺気があいなから放出された。そのせいで俺の胸倉を掴んでいた男子は手を離して呆然としている。
今も笑顔だが滅茶苦茶怖い。
「ほら、これ以上は田中くんの迷惑にもなるしやめてね〜」
あいなの言葉にクラスのみんなは逆らう事ができず、散らばっていった。
ただ1人を除いて。
「拙者は盟友の意見を尊重するでござるよ」
俺の肩に手を置きふっと笑いながら去っていくオタメガ。
何目線なんだよ。そんなツッコミを心の中で入れながら、オタメガが味方してくれた事に少し嬉しくなるのだった。
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