第13話 魔王

「桜木のやつなんなの! 怖いんだけど! あの鉄槌振り回しているだけで俺の策を全部突破してくるんだけど!?」


 ボス部屋からフィオナと配信と管理能力の二窓で桜木の動向を確認していたのだが、強すぎる。

 笑顔でゴブリンの頭に鉄槌を当てた時はここに居ても怖かった。


「ふむ。認めたくはないですがこの人間、なかなかやりますね。この様子ならオーガ達でも相手になるかどうか……」


「嘘でしょ!?」


「はい。やはり……」


「やはり?」


「魔王様自らわからせてやるのがいいでしょう!」


 ニコッと笑いながら言うフィオナ。


「だから俺は会いたくないの! 一応変装しているとはいえ、隣の席だしバレる可能性が高いじゃん!」


「と言われましても……あっ! そういえば最近スキルを入手したと仰られてましたよね!」


「それだ! 流石フィオナ褒めて遣わす〜」


 フィオナの言葉に指をぱちんと鳴らして管理権限で現在使用可能スキルを見てみる。


「はは〜、ありがたき幸せ」


 フィオナは時代劇にハマっているらしく、悪代官っぽい事をするとノリノリで乗ってくれるのだ。


 そんなフィオナを横目で見つつ、スキルを確認していると使えそうなものがあった。


 スキル名は蛮勇。効果はダンジョン内の魔物が自分より格上の敵と戦う時に普段の3倍の力を手に入れることができるらしい。


「これなんてどう思う?」


「おおっ! かなりいいんじゃないですか! 3倍の力があればオーガ達なら余裕でこの冒険者を倒せるでしょう!」


 そんな話をしている中、配信画面を見てみるとそこには蹂躙されているオーガ達の姿があった。

 コメントはかなり盛り上がっている様で、

『あいなちゃん最強! あいなちゃん最強!』

『オーガも倒せるなんて流石あいなちゃん!』

『これがつよかわか……』

 なんてコメントがすごいスピードで流れていた。


「よし! スキル発動! 蛮勇!」




「ウガァァァ!!!」


 目の前にいたオーガが突然吠えた。

 目の前のオーガは先程まで傷だらけで弱り果てていたそのはずなのにみるみると体がデカくなっていき、先程の傷が嘘の様に治っている。


「わぁ〜。何が起こっているんだろうね〜」


 油断はしない。2年近くダンジョン攻略をしているがこんなことは初めてだ。


「ウギァァァ!!」


 身体能力に身を任せてオーガが突っ込んできた。


「凄い……速くなってる。でも〜それじゃあ良い的だよ〜!」


 オーガに合わせて鉄槌を振るう。

 鉄槌は綺麗にオーガの顔面に当たった。あれだけのスピードでカウンターを喰らえば即死だろうと気を緩めた瞬間手が私の目の前に迫ってきた。


「きゃあっ!!」


 私はオーガの攻撃をモロに喰らって壁に激突した。


「ウガッ! ウガッ! ウガァ!」


 オーガは興奮しているのか地面を殴りつけてアピールしている。


「本当にどういうカラクリなのかな〜?」


 唇が切れてしまったのか血が流れる感覚があった。


「ちょっと不味いかもな〜。武器もさっきので飛ばされたし……」


 私とオーガのちょうど中心の辺りに鉄槌が落ちている。


「ガァァァ!」


 オーガが拳を振り上げながらこっちへ走ってきた。


「くっ!」


 さっきの攻撃で脳が揺れてしまったのか逃げようとしても逃げられない。

 私は手で顔を隠す様に防御する事しかできない。


「ガガガ!! ?」


 どれ程の攻撃を受けただろう。手の感覚がなくなってきた辺りでオーガの注意がドローンの方へ移ったみたいだ。

 オーガはドローンの近くへ行くとドローンを覗き込んだ後地面に叩きつけたりしている。


「に、げないと……」


 今のうちしかない。そう思い這いずりながらオーガから遠ざかる。

 後ろを見るとまだオーガはドローンに夢中の様だ。地面に落ちたドローンを見つめている。


 そんな時スマホがポケットから落ちた。スマホの画面がちょうど私に見えて電源を切り忘れていたのか配信画面のままでコメントが流れている。


『あいなちゃん逃げて!』

『誰か! あいなちゃんを助けろよ!』

『あっ、あいなちゃん前』


 沢山の逃げてというコメントの後に最後のコメントが目に入った。

 私は恐る恐る前を見るとそこには拳を振り下ろそうとしていたオーガがいた。


 あっ、もうだめだ。


「動くな」


 死を覚悟したその瞬間、聞いたことある様な声が聞こえてきた。

 私に拳を振り下ろそうとしているオーガを見ると手が震えている。

 そして次に声の聞こえた方を見ると褐色のスタイルが良い仮面をつけた女と漆黒のマントに黒の服に黒のズボンを身に纏った仮面の男が立っていた。

 そしてその男はなんとも不気味な瞳が特徴的な剣を持っていた。その剣はとても禍々しく一緒にいるだけで発狂してしまいそうだ。


「全員その場を動くなよ」


 その男はゆっくりと私の方へ向けて歩いてきた。


 この男の一挙手一投足をみた瞬間分かったこの男が、この男こそが魔王だということに。

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