第12話 桜木あいな

「みんなに愛をお届け、あいなだよ〜! みんな元気にしてた〜?」


 私は撮影用のカメラがついているドローンに向かって笑顔でいつもの挨拶をする。

 するとすぐに手元に持っているスマホにコメントが沢山流れてきて、『元気だった〜』や『あいなちゃんは元気だった?』など色々な反応があった。


「私も元気だよ〜! 今日は何をするのかって話なんだけど……前から予告していた通り最近話題の八王子ダンジョンを攻略しま〜す! いぇ〜い! ぱふぱふ!」


『いぇ〜い!』と沢山のコメントが返ってきた。


「じゃあ早速だけどダンジョンの中に入っていくね〜」


『気をつけて!』

『危なくなったらすぐ逃げて!』

『あいなちゃんのつよかわいいを今日もみたい!』


 接続数を見てみるとちょうど1万人になった。1万人の人が見てくれているなんて嬉しい。クラスの友達やモデル関係の人も見てくれているのだろうか? そんな事を考えながら配信するともっと楽しくなる。


 だってそれはみんなが私の事を見てくれていると言う事だ。

 私は人気者になりたいのだ。だから誰にでも優しくするし、平等にする。そうした方がみんなは優しいと言ってくれるし、その人の記憶に私という存在が忘れられないからだ。



「ふぅ、魔物達が一致団結して攻撃してくるって聞いていたけど噂は本当みたいだね〜。ちょっと手こずっちゃった」


 2階への階段を登りながら、カメラに向けて話す。


『でもあいなちゃんの方が強かった!』

『迫力あるよねー』

『怪我とかしてない? 大丈夫?』


 反応は上々だ。同時接続も2万人に迫る勢いだ。やっぱりタイトルの魔王がいると噂のダンジョン!? というのが良かったのだろうか?

 なんにせよ、これで私をみる人が増えてくれれば嬉しい。


「これは、魔王がいるって噂も本当かもね〜。今まで攻略してきたダンジョンじゃこんな事なかったもんね〜」


『一階は雑魚魔物ばかりだったけど、2階からはどうなるんだろうね?』


「2階からはクイーンビーとゴブリンがいるらしいよ。隣の席にいる子に聞いた話だけどね」


 1つのコメントが目に付いたので、それに対して返事をする。


『隣の席だと!? おい、そこ代われ』

『まさか男じゃないよな』

『あいなちゃんの隣とかうらやますぃ』

『クイーンビーは強敵だね。ゴブリンは雑魚だからそっちに集中しないとね』

『ボス級が普通にいるとか初心者向けダンジョンじゃないじゃん』


 ふふっ、いい反応〜。


「その男の子が言うにはクイーンビーよりゴブリンの罠に気をつけた方がいいらしいんだ〜」


『はい、殺す』

『絶対許さん』

『その男の特定はよ』


 さりげなく男の子だと言うとコメントのスピードが速くなった。


「ん〜。もう着いちゃった。それじゃあみんなコメント読める様になるのは次の階段からだからまた後でねっ!」


 私はスマートフォンをポケットにしまって代わりに背負っていた鉄槌を取り出す。


「ん〜、このフロアはちょっと暗めなんだね〜。おかげでゴブリンの罠が見にくいや〜」


 カメラは勝手に暗視モードに切り替わるから問題ないにしても、彼が言っている事が本当だとしたら罠が見えずらい。

 少し厄介だね〜。

 なんて考えているとブーンと羽音が聞こえてきた。クイーンビーの子供達だろう。


「羽音が反響していてどっちから来るのか分かりにくいね〜。でも……ッ!」


 鉄槌に力を振り回すと虫達がぽとぽとと落ちる音が聞こえた。そして羽音は聞こえなくなった。


 目を閉じて耳に意識を集中すると遠くから羽音が聞こえてきた。


「クイーンビーはそっちだね〜!」


 私は羽音が聞こえる方へ向けて駆け出した。

 遠くから狙われてはいずれジリ貧になると思ったからだ。

 こういういう手合いは早めに処理するに限る。


「ッ!?」


 瞬間、足が何かに絡まった。


 そしてそれと同時にゴブリン4体が襲いかかってきた。


 まずったかな〜。ゴブリンの罠の事を忘れてたよ〜。クイーンビーに意識を向けすぎていたね。


「でも……これくらいならもーまんたい!」


 鉄槌を、頭に当てて確実に処理をしていく。そして罠を無理矢理引き破ってクイーンビーの元へ駆けた。


「っ、あれだね〜」


 クイーンビーはこちらに見つかったと気づいたのか焦った様に子供を生み出したが、遅すぎる。

 私の鉄槌の方が早い。


「キキッ……」


 ボスとはいえ数あるダンジョンの中でも弱い部類だ。


 難易度の高いダンジョンならこれくらいは平気でいる。とはいえ、たかだか1ヶ月程度でこのダンジョンの成長は異常だ。


「やっぱり、何か秘密がありそうだね〜」


 私は頂上を目指して歩き始めたのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る