第14話 現実離れ

 やっば、桜木のやつ体ボロボロじゃん。見てるこっちも痛くなってきた。

 とりあえず治そう。


 俺は桜木に近づいて習得した魔法ヒールを使う。すると桜木の傷はみるみるうちになくなっていき、普段の綺麗な肌に戻った。


「……あ、ありがとうございます」


 桜木は酷く怯えた様子で頭を下げた。

 とりあえず俺だとはバレていないみたいだ。声でバレるかもと思っていたが、その心配はなさそうだ。


「オーガ……」


 俺はそんな桜木を一瞥して桜木の近くで震えているオーガ2匹に声をかけた。


 俺は桜木が怪我をした時点で退く様に言ったのに、命令を出したのにオーガ達はそれを無視した。


 だから確認しなくてはならない。もしも蛮勇のせいで無視をしたのなら、俺は2度とこのスキルは使えない。

 魔物達の精神を無理矢理昂らせるのは良く無い事だと思う。


「どういことだ?」


 とは言え桜木がいる以上魔王ロールプレイを続けないといけないので優しく聞くことができない。


「ガァ……」


 2匹は震えながらその場にこうべを垂れた。


 ……これじゃ話にならないな。


「フィ……おい、こいつらをボス部屋まで連れて行け」


 あっぶねー。名前を言うところだった。


「はっ」


 フィオナは2匹に近づくとテレポートを使って消えた。部屋に帰った様だ。


「さてと、あとはコイツをどうするかだな」


 どうやって帰ってもらおうかな、なんて思いながら桜木に近づいた。



「さてと、あとはコイツをどうするかだな」


 そう言いながら近づいてきた男の威圧感で今にも意識が飛んでしまいそうになる。


 どうせ殺すつもりなのにどうして回復なんてしたんだ? そもそもどうやって私を回復させたの? ポーションを使った様子は無かったし。


 そんな事を考えても答えは出ない。ならば直接聞いたほうがいいだろう。


「なんで私を助けたんですか?」


「死にたかったのか?」


「いえ、そう言うわけでは……」


 何を考えているか分からない。私は深呼吸をしてもう一度目の前の男を見た。


「貴方が魔王という事で間違いないですね?」


「さて? そんな名前名乗った覚えはないが?」


 確かにそれは私達が勝手にそう呼んでいるだけだ。私はチラリとスマホを見て配信がつながっているのを確認する。

 同説が5万を越えていてコメントも早すぎて見えない。みんなが私を見てくれている。どうせ死ぬならもっとファンを増やしてやろう。


「では、貴方の名前は?」


「……好きに呼べ、先程までは魔王と呼んでいただろう? 気に入ったその名で俺を呼べ」


 男は仮面越しでも分かるくらい困った様な顔をするとそう答えた。

 あくまで本名は教えないという事か。


「そうですか。では、最初の質問に戻ります。どうして私を助けてくれたのですか?」


「……理由は特にない。ただ、迷惑なのだ。お前ら冒険者を名乗る奴らが俺の城に入ってくるのもここで死ぬ事も……死体の処理を俺にやらせるつもりか?」


 俺の城? まるで自分の物の様な言い方だ。


「ここはダンジョンですよ? 貴方の物ではないと思いますが」


 その言葉を聞いた瞬間男が指をパチンっと鳴らした。

 何をしたんだと不思議に思っているとドンドンという音が近づいてきた。


「……嘘、でしょ……」


 オーガが何匹も集まってきたのだ。まるで統率された軍隊の様に。

 魔物をテイムする人は知っている。その人は魔物と心を通じ合わせる事で魔物を使役したがこれは違う。

 魔物達がこの男を崇拝しているのだ。テイム自体希少な物なのにこんなのは桁違いだ。

 もしもダンジョンにいる全ての魔物を使役しているのだとすれば、日本なんて簡単に侵略できるだろう。


「これでも俺の物じゃないというつもりか?」


「………」


 私は口が動かせない。改めて認識した、この男は私よりも遥か高い存在なのだと。

 私が絶句していると男が手を叩いた。するとオーガ達は散らばって行った。

 

「さあ帰れ」


 男はうんざりした様子でそう言った。


「わ、わかりました」


 これ以上は無理だと判断した私は立ちあがろうとするが立ち上がれない。

 腰が抜けてしまった様だ。


「何をしている?」


「そ、その腰が抜けちゃって」


「何やってんだよ……」


 男は小さな声で呆れた様にそう言った。とても小さい声だったが、聞き取ることができた。

 そしてこの声。やはり聞き覚えがある。どこで? どこかで聞いたはずなのに思い出せない。


「今から貴様と道具を全て入り口まで帰してやる。だから2度とくるんじゃないぞ」


 男がそう言って私に向けて右手を向けた。


「どうやっ……て……」


 そんな事を? そう聞こうとした瞬間私と武器そしてスマホにドローンはダンジョンの入り口にいた。


「………」


 私は言葉を失いながら辺りを見渡した。そしてスマホが目に入るとコメント欄では、

『何が起こった?』

『こんなのありえないだろ』

『魔王って本当にいるんだ』

『嘘でしょ』

『これがフェイクじゃ無かったら大問題だぞ』

『あいなちゃん大丈夫!?』

など様々で間違いなく明日のネットニュースには載るような世紀の大発見をしてしまった。


 私はそこでまだ配信が切れていないことに気づいた。

 ドローンを手に取り無理矢理笑顔を作る。


「み、みんな〜。今日は色々なことがあってびっくりしたね〜。私もちょっと疲れちゃったからこれで配信は終わるね〜」


 私はドローンの電源を落とす。


『あいなちゃんお疲れ! よく休んでね!』

『また元気になったら配信してね!』

『こんなことになったら混乱するよね』

『お疲れ様』


 コメ欄ではお疲れという声が殆どだ。中にはもう一回魔王に会いに行こうと言う冷やかしコメントもあるが今の私にそんな余裕はない。


「……もう一回配信見直してみようかな〜」


 あの声絶対聞いたことあるのに思い出せない。


 でも、帰ったらまずはお風呂に入って寝よう。あまりにも非現実的な事が起きすぎて一度頭をリフレッシュさせたい。

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