意味もなく、向かう先で。

山の職場に勤めると、冬になると仕事はごっそりと痩せる。パンパンに詰まっていたルードの仕事は、空き空きになり、部屋の中で布団に包まり、簑虫状態を繰り返す日々が続いていた。寒さと甘えが、ルードと言う人間を腐らせる。部屋の中で大人しくしていれば、ガソリン代もかからず、購買意欲も湧かず、次の出勤日まで、お金を使わずに大人しく過ごすには最適であった。

でも、動かずいれば、心が腐りだす。

ふと、急に出掛けたくなり、ルードは東の山めがけて走り出す。2時間程車を走らせ、ダム湖で一休み。湖の水面際に立ち、ボーっと眺めていると、声が聞こえた。

(良く来たな。)  (・・?

声が聞こえたような気がする方へ目をやる。

山が目に映る。

   (良く来たな。)  (・・?

また、別の場所から声が聞こえる。

目で追うと、更に奥の山が目に入る。

     (良く来たな。)

  (良く来たな。)

        (良く来たな。)

声が聞こえる度に、視線を声の方に移動する。

その向こうの山。さらにその向こうの山。

さらに。。。

山が、挨拶をしていた。

まるで、ルードが来るのを待っていたかのように。

(ここに来るのは知ってたよ。)

一人の山がそう口にすると、他の山々も同時に、(知ってたよ。)

同じ言葉を合わせたかの様に口にした。

ここは、母の生まれ育った土地。

子供の頃は、幾度となく、母に連れられて来た場所。

(私のこと、覚えているの?)

ルードが心の中で思うと、(覚えているさ。)

リフレインする様に口々に言葉にする。

ルードの脳裏にあの頃の景色が映る。

錦鯉の生け簀に、ようよう釣り、お面売り場に。じいちゃんと来た、祭りの景色。

懐かしき景色に心を溶かされて、昔に戻る。

(懐かしい。。。)

心を満たされた所で、目的地に向かうことにした。

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