「山」と「人間」と「人間」

人気のない冬の午後。

ルードの職場の売店に、女性が現れた。

山登りでもなく、宿泊客でもなく、BBQ場利用者でもなく。


女性は、店内に設置されたカフェを利用し

話しだした。

「ここの入口に、土地を持っていてね。環境のために、そこに太陽光を設置したの。」

「もう少ししたら、その下にも、同じ大きさの太陽光を設置するのよ。」

その女性は、自慢気に話し出す。

そして、ルードは、管理人さんの言葉を思い出していた。

「元旦のご来光を見るのに、太陽光が設置されちゃって、お客さんみんなががっかりするだろうな。。。」

正月を目前に、みんなががっかりしていた原因を、目の前の女性は高らかに自慢し、そして、同僚たちは、溜息を付く。

(あの太陽光は、あなたか。。。)

初めは、嬉しそうに話していたのに、部屋の落ち込んだ空気を感じてか、その女性はそそくさと飲みものを飲み干し、店を後にした。


土地があっても、資産としての価値を見いだせない。土地所有者の多くの場合、管理費としての出費は生まれるが、利益としての収入源にはなりにくい。大地震が起きた後、輪番停電が生まれ、太陽光発電が注目された時に、山や畑や放棄地は、太陽光発電設備を設置し始めていた。

土地の所有者からすると、

「環境にいい事をして、誇らしい。」

「尚且つ、資産運用も出来て、なおさら良い。」

当事者と、その他の人間の思うことが変わってくる。

「景観が崩れて、残念だ。」

1つではない、その他の感情が、生み出されていた。

人間以外の生命からは、どう感じていたのだろう?


それから数年で、山のあちこちで木々は刈り倒され、はげ山に。豊かな自然を剥いだ上に、太陽光発電設備をびっちりと設置された。

空を飛ぶ飛行機からも、遠くの道路を走る車からも、意識せずともテカテカと、光り輝く巨大な板が目に映る。

一箇所の話ではない。山登りの人は、行く場所、行く場所で、それを目にしているはずだ。

人間が、山に踏み込み、環境をガラリと変える。変わった環境に戸惑い、そこで生きていた動物は、冬になると人間の畑に餌を求めに入るようになった。

人は、「街場に、鹿が出た。猪が出た。熊のが出た。」警戒注意報を発令するけれど、

人間自らが、他の生態の場を荒らして、それが同じ様に、自分たちの生活の場に転写されただけ。

「どうしてこんな事になったのか?」

「害獣駆除をしなければ。。。」


山はじっと一部始終を見ている。

木々は黙って、切り倒され、

土は、太陽光発電設備に覆われた。

虫に、鳥に、動物に、爬虫類達の生活の場が、一気に奪われた。

人間の行為で犠牲になる存在。

全ては、分かり知れない。

感情をむき出しにし怒りを露わにしていたあの音。


「ドゴンドゴンゴロゴロゴロゴロガー」

「ドゴンドゴン」


山の鬱蒼と生やした木々の一面を歩き、

ポカリと空いた空間、

木々が切り倒された後を目に、

山の中で、何かが憤慨している空気を身体中で感じていた。怒っている理由はこれかと、

鈍感なルードですらも、分かった気がした。


もし、人間が怒りの感情を感じていたのなら、山の中には、居続けられなかったであろう。

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