ルードにしか聞こえない音

「ねぇ?」

「なんか変な音。聞こえない?」


「ドゴンドゴンゴロゴロゴロゴロガー」

「ドゴンドゴン」


「ほら。」

「あぁ?」

サツチの友達のツカサは、木を虐めているかのように見えていた手を、止めた。

辺りを見渡して、耳を澄ませて確認する。

「なんもおらんよ。」

「メンもおらん。」

「大丈夫じゃ。」


ツカサはまた、木を両手で掴み、

ユサユサと振り回し始めた。


「ドゴンドゴンゴロゴロゴロゴロガー」

「ドゴンドゴン」

「ガァーーー。」


「ねぇ。ねぇ。」

「やっぱり聞こえるよ。」

「なんか怒っている。」

「止めよ?そろそろ帰らない?」


「あぁ?」


ツカサはまた、手を止め辺りを見渡す。


「なんもおらんよ。」

「大丈夫じゃ。」


ツカサが木に手を掛けようとするとまた


「ドゴンドゴンゴロゴロゴロゴロガー」

「ドゴンドゴン」

「ゴガァガガガァーーーー。」


ルードは、気が付いた。

ツカサには聞こえていない。。。

どうやら、自分だけに聞こえている。

(怖い。。。怒っている。。。)

(分かんないけど、怒っている。。。)

(なぜ?)


「ドゴンドゴンゴロゴロゴロゴロガー」

「ドゴンドゴン」

「ガァーーー。」


鳴り響く音の中、ツカサは縦横無尽に駆け回り、山菜が目に付く木々を端からのぼり、掴み、収穫して回る。


「ほら、コシアブラじゃ。」


「ゴロゴロゴロゴロガー」


(なんで、この音が聞こえないんだろ?)


ルードには、不思議不思議でたまらなかった。

ツカサは、霊感が強い男。

道を歩けば、

「ほれそこに、着物を着た女がおるよ。」とか、「あそこにおる」とか、至るところで、霊が見えてしまっているようで、霊が見えてしまっているだけではなく、

神とか護り神とか、他の人には見えないものが見えているらしく、普通の人が知らない事をよく知っていた。

「山と神社は3時までじゃ。」

「その前に帰らんといかん。」

その意味を説明しろと言われても、どう説明したら良いかは分からないが、ルードにも、時間になったら、近づいてはいけないのは、分かった。ある時が来ると、ガラリと変わる。

居てはいけないのではなく、近付けない空気に様変わりをする。


ツカサが、すべて視えて、聞こえて、分かっているかと思っていたのに、そうではないことを、ルードはその日、始めて知ってしまう。


ルードに聞こえて、ツカサに聞こえないものがある。ルードに感じ取れて、ツカサに感じ取れないものがある。


抜きん出た能力があるように見えて、すべてを司って居るわけではないことを、知った日。

ルードは、ツカサには言わなかった。

何が聞こえたのか?

何が聞こえていたのか?


聞こえないと言う事は、聞く必要がないということ。

必要のあるものは、すべて、その個体が兼ね備えていると言う事。

不要なものを、敢えて付与することは必要がない。歪な形になるだけ。

ルードは、その日、言葉にしてはいけないことを一つ知る。自分だけが聞こえて、感じ取れること。「ある」ものと「ない」ものが存在すること。

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