第6話 パーティー

 二階の応接室に招きダークブラウンのアンティークソファーに花盛翡翠を座らせ、キッチンでハーブティーの用意をする。もちろんこのハーブティーは睡眠薬入りだ。


 「店長、このお部屋見て回っても?」

  

 「あぁかまわないよ」


 最後の娑婆しゃば世界の景色が質素な部屋で申し訳ないところではあるが。


 しばらくしてハーブティーを持っていくと花盛翡翠は本棚に飾ってあった写真立てを手に取っていた。その表情は写真に目を瞠り驚いているようだ。確かその写真立てには――


 「……店長この写真に写っている女の人って……」


 そうそれは紫水字歌と撮った写真であった、偽装用に撮ったものだが、その後も処分できずに飾っていたものだ。

 

 「あぁそれは別れてしまった妻との写真なんです。すいません、こんな未練がましいものを見せてしまって」


 と言う設定。


 「お、お別れになったのはいつ頃ですか? この人は今どこに住んでいるか知っていますか??」


 ? 矢継ぎ早に質問をする。


 「落ち着いて花盛さん。元妻のことを知っているのかい?」

 

 花盛翡翠は口ごもり瞳に涙をためながら答える。


 「……実は、この人が私の探している人なんです……良かったやっと手掛かりが見つかった。絶対に見つけるからね、お姉ちゃん」


 は? 今何と言った? お姉ちゃん? 紫水字歌に妹、そんなことは一言も……、いや、違うそんなことはどうでもいい。花盛翡翠は姉である紫水字歌を探しにこの街にやってきたというのか、確かに一年前紫水字歌はこの街にいた。だけど彼女は俺が……


 「見間違いでは……」


 「お姉ちゃんの顔を間違えるはずありません! 店長! お願いです!! お姉ちゃんに会わせてください!! お願いします!!」


 俺の胸元をつかみながら懇請する。しかし……紫水字歌は……俺が殺した、言えるわけがない——違うそもそも紫水字歌の妹だからと言って何なのだ任務とは関係ないではないか、俺の任務は花盛翡翠を組織に献上することじゃないか、流されるな昔を思い出せ、情に絆されるな。


 その時——


 バリーーーンッ!!


 突如背後からけたたましく硝子が割れる音が響く。割れた方に素早く身を捩り見遣る、何かを投げ込まれたように硝子が部屋の中に散乱し硝子の中には煙を噴出する黒い物体が、あれは——催涙弾!!


 催涙弾、殺傷能力は極めて低いが、目や呼吸器官への影響は厄介極まりない数分の行動制限が発生してしまう。


 「目を閉じて息を止めろ!!」

 

 花盛翡翠に怒号にも似た口調で言う。


 花盛翡翠を横抱きにし部屋を飛び出す。階段を駆け降りようとした時、眼下の先の一階はすでに催涙ガスが充満し、降りるのは困難な状態になっていた、一人であればまだしもこの状態では……階段の先を見る、ならば屋上しかない——。


 

 



 

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