第7話 花

 屋上のドアを蹴破る。


 催涙ガスからは事なきを得たが、間違いなく何者かに花盛翡翠の居場所が筒抜けだったようだ……この場合の想定はターゲットの確保が困難の場合——抹殺。


 「ゲホッゲホッ店長……これって一体?」


 「……説明を簡略化させてもらう、俺は『魔女』であるお前を保護する任務を請け負っている組織人だ。しかし魔女であるならわかっていると思うがお前たちのような未確認の魔女や魔法使いは国や俗物達のいい的だ、まさに今何らかの組織がお前を狙ってここを襲撃している」


 聡いのだろうこの言葉だけで自分の立場を理解したようだ。


 「そん…………どこの国も私達に人権なんてないんですね。でも私の魔法なんてなんの役にも立たないのに」


 すると花盛翡翠はポケットから花の種を数粒取り出し両手で包み込む、すると両手が薄ぼんやりと紫色に発光し始めた——花盛翡翠の瞳も魔力の循環で紫色に変わった——神秘的だった花盛翡翠の手からみるみると数本の『ポインセチア』が咲いたのだ。


 「これは…」


 「あはは、これが私の魔法、なんの役にも立たない『花を咲かせる魔法』です」


 「……綺麗だ」


 瞠目し驚いた様子だ。


 「ありがとうございます……」


 


 「全くもって不快極まれりだ、花屋敷」


 威厳と冷淡を混ぜ合わせた抑揚のない声、蹴破ったドアの方から聞こえる。


 「日木……」


 日木禅はこちらに冷徹な瞳をぎらつかせ咥えタバコをしながら当然のようにこちらに拳銃を向け佇んでいる。

 

 「どう言う事だ日木」


 「ふん、どう言う事だ、はこちらのセリフだ腑抜けが、私は回収しに行くと言ったはずだ。花屋敷まさかとは思うが独断で魔女をかくまい反旗を翻すつもりか?」


 「そんな事は……」


 「ではさっさとその魔女をこちらに渡せ。お前が部屋で睦まじく戯れていた事は口外しないでおいてやろう」


 部屋で——監視されていたのか、さっき部屋で紫水字歌について問い詰められている時、花盛翡翠が胸元に飛び込んできた時のことか。たしかに傍目から見れば疑われても仕方のないことか……、


 「……どう言うつもりだ花屋敷」


 日木の言う言葉の意味がわからなかった——どう言うつもり、俺は花盛翡翠を後方に下げ護る形で日木の前に立ちはだかっていた。


 自分の行動に自分自身が驚いている。この行動は花盛翡翠の姉である紫水字歌を殺したことへの贖罪のつもりなのか? どうやら、俺は良心の呵責に苛まれるような人間になってしまったようだ……笑える冗談だ、今の俺は花盛翡翠を逃す事を考えている。

 


 「……やはりお前はあの妖婦ようふに殺されてしまったようだ。残念だ、非常に残念だ」


 日木はそう言うと引き金に指をかける。この距離だ、元相棒である俺が保証しよう、日木は絶対に外さない。俺は静かに瞑目しその時を待った。


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る