第5話 クリスマス


 これ以上、俺の精神状態で彼女と関わると碌な事にならない、それくらいには自身と向き合えているつもりだ。


 日木との電話を簡潔に終わらせ、バックルームを後にする。決行するなら今日か……いや何を迷う必要がある、今日ではなく今なのだ。身寄りのない少女にして魔女がこの街に家族が居ようものか、ならば——


 「花盛さん今日はバイトが終わった後、予定はありますか?」


 花を一つ一つ愛でながら手入れをする花盛翡翠に訊く。


 「え? 用事ですか? いえ……お買い物をして帰るだけでしたけど何か?」

 

 「そうですか、もし良かったら今日はもう店を閉めて花盛さんの歓迎会をしようと思うのですがどうでしょう?」


 「えっかかかか歓迎会! それって私が歓迎されているってことですか??」


 握りしめた両の手を胸の前にあて喜びを惜しげもなく露わにする。


 「え、えぇそうですよ。私としても初めての雇用ですから、初めての試みではあるのですがどうですか?」


 「わ、私も初めてです! 歓迎会しましょう!」


 「花盛さんはされる側なのでそんなに意気込まなくていいんですよ。では閉店作業をしましょうか」


 今思えば閉店作業などせず、花盛翡翠を確保しておけば良かったのだ、今日ではなく今なのだと自分を鼓舞したにしては歓迎会という回りくどい方法をとってしまった。やはり俺は任務をこなせるほどの精神状態ではないのだ。


  殺し屋に必要なのは冷静沈着に冷徹に引き金を引くこと、なのに紫水字歌を殺したあの日以来、俺はターゲットを前にしても引き金を引くことができなくなっていた。脳裏にはいつも字歌の最後の表情がちらつく『君には血の通った心がある。だから――』彼女は最後何を伝えようとしたのか……今となっては知るすべはない。


 「店長締め作業終わりました!!」


 無邪気に右手で敬礼しながら伝えてきた、今から起こることなどつゆ知らず。


 「……ありがとうございます。実はこのお店、二階が来客用の応接室になっているのでそこで出前でも取ってお祝いしましょう」

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