第5話 唐揚げと偶然
◯
昼休憩。秋にもなって初めて食堂を使う。今朝は珍しくお母さんが寝坊して、お弁当が作れなかったのだ。いつも作ってもらっているし、たまにはこういう日があってもいいと思う。お母さんのお弁当が一番だけどね。
一緒に来た友達は慣れた手付きで食券を買っていく。
「…なやむ…」
うちの食堂はメニューが多く、味も絶品とのことで結構人気が高いらしい。その評判どうり、ズラッと並んだメニューはどれも捨てがたい。
…よし!唐揚げ定食にしよう。
食券を買い、食堂の人に渡してしばらく。私の目の前には美味しそうなからあげが鎮座していた。
「いただきます…!」
サクッとした食感がして、ジューシーな肉汁が口いっぱいにあふれる。
「!おいしぃー…」
その衝撃から十数分後。目の前のお皿はすっかりからになっていた。
「ごちそうさまでした!美味しかったです。」
食堂の人にそう言って、教室に戻る。戻っている途中、学校ではめったに会わない人に声をかけられた。
「!ひめ、今日は食堂だったのか?」
「やっほー陽愛奈ちゃん。見つかってよかったねぇ明人。」
「…余計なお世話だ…」
私に声をかけたのは
「明人先輩に実先輩。どうしたんですか?」
上の学年だからちゃんと先輩と呼ぶ。流石に学校で明人にぃとは呼べない。でも、こんなところで明人にぃに会えるなんて…!声、うわずってなかったよね!?大丈夫かな…
若干しかめっ面をした明人を横目に、実先輩が話しかけてきた。
「なんか明人が陽愛奈ちゃんに言いたいことがあるっていうから、俺は付き添い。」
「なるほど…?」
と言いつつ明人にぃの方を見ると、
「…今日、用事ができたから、先に帰っといてほしい。」
「?いいよ。」
ちょっと寂しいけど、用事なら仕方ない。方向音痴を発動しないか不安ではあるけど。でも、不安も寂しさも顔には出さないようにした。
「じゃあ、それだけだから。また明日。」
そう言うと、明人にぃは若干しかめっ面をしたまま帰っていった。
「…ちゃんと言えばいいのに。」
実先輩が小さくなにか言ったけど、聞こえなかった。
「?先輩、なんて言いました?」
「ん?ああ、何でもないよ。じゃあね、陽愛奈ちゃん。」
そう言うと、実先輩も明人にぃを追って帰っていった。
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