第5話 唐揚げと偶然

陽愛奈ひめな視点

昼休憩。秋にもなって初めて食堂を使う。今朝は珍しくお母さんが寝坊して、お弁当が作れなかったのだ。いつも作ってもらっているし、たまにはこういう日があってもいいと思う。お母さんのお弁当が一番だけどね。

一緒に来た友達は慣れた手付きで食券を買っていく。

「…なやむ…」

うちの食堂はメニューが多く、味も絶品とのことで結構人気が高いらしい。その評判どうり、ズラッと並んだメニューはどれも捨てがたい。

…よし!唐揚げ定食にしよう。

食券を買い、食堂の人に渡してしばらく。私の目の前には美味しそうなからあげが鎮座していた。

「いただきます…!」

サクッとした食感がして、ジューシーな肉汁が口いっぱいにあふれる。

「!おいしぃー…」

その衝撃から十数分後。目の前のお皿はすっかりからになっていた。

「ごちそうさまでした!美味しかったです。」

食堂の人にそう言って、教室に戻る。戻っている途中、学校ではめったに会わない人に声をかけられた。

「!ひめ、今日は食堂だったのか?」

「やっほー陽愛奈ちゃん。見つかってよかったねぇ明人。」

「…余計なお世話だ…」

私に声をかけたのは明人あきとにぃとその親友のみのる先輩。2人は上の学年なので、学校で偶然会うということはめったにない。うちの学校は学年ごとに校舎が別れている。1学年の人数が多いからだ。

「明人先輩に実先輩。どうしたんですか?」

上の学年だからちゃんと先輩と呼ぶ。流石に学校で明人にぃとは呼べない。でも、こんなところで明人にぃに会えるなんて…!声、うわずってなかったよね!?大丈夫かな…

若干しかめっ面をした明人を横目に、実先輩が話しかけてきた。

「なんか明人が陽愛奈ちゃんに言いたいことがあるっていうから、俺は付き添い。」

「なるほど…?」

と言いつつ明人にぃの方を見ると、

「…今日、用事ができたから、先に帰っといてほしい。」

「?いいよ。」

ちょっと寂しいけど、用事なら仕方ない。方向音痴を発動しないか不安ではあるけど。でも、不安も寂しさも顔には出さないようにした。

「じゃあ、それだけだから。また明日。」

そう言うと、明人にぃは若干しかめっ面をしたまま帰っていった。

「…ちゃんと言えばいいのに。」

実先輩が小さくなにか言ったけど、聞こえなかった。

「?先輩、なんて言いました?」

「ん?ああ、何でもないよ。じゃあね、陽愛奈ちゃん。」

そう言うと、実先輩も明人にぃを追って帰っていった。

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