第4話 チョコチップクッキー
◯
「おまたせ、待った?」
「ううん。行こっか。」
帰り道を並んで歩く。なぜ二人で帰っているかというと、それは今年の春、私の高校生活初日まで遡る……
「ねぇ、本当に一人で行けるの?あなた道も覚えられないし、方向音痴でしょ?」
「だいじょうぶだって、お母さん。一人で行けるから。入学式だって学校に行けたでしょ。」
「あれはお母さんが一緒にいたからでしょ?正直、2、3回くらい全然違う道に行こうとしてたじゃない。やっぱり明人くんに一緒に行ってもらったほうがいいんじゃないの?」
「だいじょうぶだって。そこまで子供じゃないし。初日は早く行きたいから、そろそろ行くね?いってきまーす。」
心配するお母さんを振り切って学校に向かう。別に、電車に乗るわけでもなく、徒歩圏内の学校なのだ。高校生にもなって、迷うはずはない。そう思っていたんだけど…
「……ここどこ…」
私はしっかり迷った。別に長距離を歩くわけでもないのに。そして、明人にぃに電話して、事情を話して迎えに来てもらったのでした…お母さんは仕事だったし、あんなふうに言った手前、電話しづらかったんだよね…後で絶対グチグチ言われるし。しかも、明人にぃは嫌な顔せず来てくれた。私が早く家を出ていたこともあり、お互いに遅刻寸前だったけどなんとか学校には間に合った。本当に明人にぃには申し訳なかったと思っているし、感謝しかない。
いや、正直に言うとね?この状況自体は嬉しいよ?好きな人と一緒に登下校って最高じゃん?でもさ、なんか違うよね?お互いに行きたくて行っているというより、明人にぃはもはや責任感と義務感で一緒に行ってくれるようなもんじゃん?
「なぁ、」
でもこの状況自体は嬉しいから全然ありがたいけどね!ふたりとも部活入ってないから一緒に帰れてるんだし!
「…ひめ?」
そもそも、恋人でもないのに好きな人と学校行けるってめちゃくちゃラッキーな事なのでは?あー……ポジティブに捉えよう。ポジティブに。
……よし、元気出てきた!
「ひめ!」
「!!びっっくりしたぁ…どしたの、明人にぃ。」
「いや、話しかけてもめっちゃ無視されるから…」
「えっあっごめん!全然聞こえてなかった…」
「そう…何かやらかしたかと思った…怒るとひめ怖いからな。」
そう言いながら、彼は少しホッとした顔でニッと笑った。
その表情に少しドキッとしつつ。聞き捨てならない言葉があった。
「私、怒ってもそんなに怖くないよ?」
友達にもよく言われるのだ。私の怒り顔はあまり怖くないらしい。それに、好きな人に怖いって言われるとなんか複雑だし…
「いや、怖いっていうより、なんかグサグサ刺さるような……」
「?ごめん、もう一回言ってくれる?聞こえなかった。」
「……なんでもない。」
ほんとに聞こえなかったんだけど…まぁいっか。
「それで、何の話だったっけ?」
「あぁ、朝言ってたクッキー渡そうかと思って。」
「ほんと!?私このために今日の授業をのりきったんだよね。」
「はいどうぞ。」
渡されたのはきれいにラッピングされたチョコチップクッキーだった。
「チョコチップクッキー!美味しそぉ…ありがとう、明人にぃ!」
ちなみに私の好きな食べ物はクッキーなんだけど、特にチョコチップクッキーがすきなんだよねぇ。
「今食うか?」
「うーん…じゃあ一個だけ食べて、残りは家で食べようかな。」
そう言ってクッキーを一個取り出す。これは味わって食べねば…!
「……美味しい?」
「うん!今まで食べた中で一番美味しいかも…!」
「ならよかった。流石に1番は言いすぎじゃね?嬉しいけどさ。」
「そんなことないよ、これが一番美味しかっ……」
続きは、言えなかった。だって、彼が満面の笑みでこっちを見ていたから。絶対に自分の顔が赤くなっている。そう自覚して。
「ひめ?」
「な、なんでもない!このクッキーが一番美味しかったよ。」
「そっか…ありがとな。」
再び笑顔になった彼の顔を見て、すごく幸せな気持ちになった。
こんな日々がずっと続けばいいのにな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます