第3話 調理実習でクッキー作り

明人あきと視点

「それじゃあ、提出してもらったメニューをそれぞれ作ってください。」

 先生が言うのと同時に、みんなが一斉に作業に取り掛かる。

「じゃあつくるか。」

「そうだな。」

「なぁ、今日ってなんでクッキーなの。」

 同じ班の杉原すぎはらわたりが話しかけてきた。

「あー……とりあえず色々あるけど……」

「「あるけど?」」

「…お前ら料理苦手って言ってなかったっけ?」

「「………」」

「一番の理由は作りやすいからだな。包丁使わないし。」

「流石に包丁は使えるぞ?俺等。」

 渡が若干苦笑気味に答える。

「……」

「まぁ、そこの心配をしてるわけじゃないんだが…クッキーだと授業の合間に食べられるぞ?」

「!いいねぇ。何味作る?」

「そこはお好みで。」

「俺チョコ味がいいな。」

 みのるが話に加わってきた。

「じゃあやるか。…って言いたいんだけど、」

 ちらっと横を見ると、包丁の話からずっと黙っている、というか固まっている杉原に目を向ける。

「杉原、今回は包丁使わないから、大丈夫なんじゃないか?」

「が、頑張ります…」



「チーン」

 待ち望んでいた音が俺たちのもとでなる。

「できた?できてる?」

「ちょっと待てって。」

 目がキラキラしている3人をなだめつつ蓋を開ける。

「「「「おぉー!!!」」」」

「でき…てる…できてるよな!?」

「長かった…ここまで、長かった…」

 なんかテンションがおかしいやつがいる気がするが、触れないほうがいいだろう。色々あったのだ。色々。

「で、みんなそれぞれ何味にしたの?俺はチョコ味にしたけど。」

 実が3人に問いかける。今回、全員がそれぞれ味やトッピングを選び、他のやつにそれがわからない様に作ったのだ。焼くときに並べたから俺は知ってるけど。

「僕はプレーン!1番好きなんだ。簡単そうだったし!あとからチョコペンでなにか書こうかなって。」

「おぉーいいねぇ。渡は?」

「俺は抹茶だな。トッピングは諦めを感じた。」

「あはは、なるほどねぇ。明人は?」

「俺はチョコチップ。」

「チョコチップ!その手があったか…いいなぁ…」

「やっぱ明人のやつ1番うまそうだよな。なんか、安定感がある。」

 杉原や渡が俺のクッキーを羨ましそうに見ている。褒めてくれるのは嬉しい。だがしかし。

「あげないからな、何を言われても。」

「バレたか。でも、うまそうなのはほんとだからな?」

 やっぱりか。いたずらがバレたような顔をしている。あげてもいいが、俺だって少しは食べたいのだ。それに、あげる約束もしたし。今回はなかなかにいい出来だったから。…ひめ、喜ぶかな。

 ……なんか、実がめっちゃにやにやしてるんだが。昨日勉強し過ぎたのか…?

「今日お前めっちゃにやにやしてないか?勉強し過ぎか?」

「違う。というか、お前俺のことなんだと思ってるんだ?」

 真顔で否定された。解せぬ。

「なぁ杉原、チョコペンでなにか書くんだろ?なに書くんだ?」

「えっとね…」

 クッキーの完成はまだまだ先になりそうだ。


 完成されたクッキーを見てふわりと微笑んでいる明人の表情は、実以外の誰にも見られることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る