第6話 寄り子
ギフトは、使用することで経験値が溜まりレベルアップする。しかし、ただ普通に使っているだけでは貰える経験値は微々たるものだ。
ギフトのレベルアップを目指すなら、邪神の手先を倒す必要がある。
邪神の手先と言うと無駄に強そうだが、ようはモンスターのことだ。モンスターを倒すと、ギフトの経験値がより大きく溜まる。
しかし、それはモンスターの命を奪った者、ラストアタックを決めた者だけだ。
ヒーラーである治癒のギフトの持ち主は、攻撃力はカスだ。とてもモンスターのラストアタックなどできるわけがない。
そこで、ゲームではヒーラー育成のための抜け道というのが存在した。
それが呪われたアイテムの解呪だ。
呪われたアイテムを解呪すると、通常よりも多くの経験値を得ることができる。
モンスターの中にはアイテムを呪うモンスターも居り、呪われたアイテムに事欠かない。
それに、この世界の住人は治癒のギフトという名前に騙されているのか、呪われたアイテムの解呪で治癒のギフトのレベルが上がることを知らないみたいだ。
おかげでどんどこ呪われたアイテムが安価で手に入る。
オレはこれを解呪して、治癒のギフトのレベルを上げるつもりだ。
MP、この世界では聖力というらしいが、聖力が少しでも溜まれば、オレは呪いのアイテムの解呪に使った。
おかげで治癒のギフトのレベルは上がってきたが、まだコルネリアの邪神の呪いは解けない。本当に解けるのかさえ分からない。
だが、オレにはこれしかないんだ。オレの力で手に入るどんな薬もダメだった。もうオレには治癒の奇跡に縋るしかない。
嫌いな神様だが、毎晩祈っているほどだ。
オレはどうなってもいい。だからどうか、どうかコルネリアを助けてほしい。
◇
「坊ちゃま、ヒューブナー辺境伯家よりお手紙が」
「爺、坊ちゃまはよせ。オレはこれでもこのバウムガルテン領の領主だ」
いつものやり取りをして爺から手紙を受け取る。この封蠟は間違いなくヒューブナー辺境伯家だな。ゲームではオレはこいつの息子の取り巻きの一人だった。
今頃何の用だ?
オレは封蝋を割ると中の手紙を確認する。
「…………ナメてやがる」
「坊ちゃま?」
「だから、坊ちゃまは止めろ」
オレは爺に手紙を投げてよこした。
ヒューブナー辺境伯からの手紙は、平たく言えば治癒のギフトの使い手のオレを息子の友人にしたいだった。
友人といってもオレは男爵で相手は次期辺境伯だ。単純な友だちなどではなく、部下に近い。これ自体はいい。だが問題は後半だ。
ヒューブナー辺境伯は、コルネリアが病であることを知っていた。さすがに邪神の呪いだとは知らないようだが、高い薬代がかかっていることを知っているようだ。
オレが辺境伯の息子の友人になれば、金を恵んでくれるらしい。
なんとも足元を見たやり口だな。気に入らない。
「坊ちゃま、これは……」
「ようするに金で買ってやると言われているんだ。コルネリアの命が惜しければ従えとな」
「坊ちゃま! なりませんぞ! こんな人の足元を見た条件など!」
「わかっている。そう怒鳴るな。血圧が上がるぞ?」
ヒューブナー辺境伯。こいつはダメだ。対邪神戦線で大ポカをやらかすアホ。王国の威信をかけた第一回対邪神包囲殲滅作戦は、こいつのせいで失敗したと言ってもいい。そして、その息子は更に輪をかけた愚物。邪神の封印を解くすべての元凶だ。
こいつらに近づくのはナシだな。百害あって一利もない。
だが、よりにもよってヒューブナー辺境伯はバウムガルテン男爵の寄り親なんだよなぁ……。今は普通の手紙だから無視も許されるが、命令されればそうもいかない。
おそらく金のないゲームのディートフリートは、この手紙に飛びついたのだろう。
そして、辺境伯の息子の取り巻きになり下がった。
しかし、オレにはあと二年はコルネリアの薬を買う金はある。人身売買はオレの過去の予想以上の成果をあげているのだ。
今ここでヒューブナー辺境伯の提案を受けるメリットはない。呪われたアイテムを解呪してギフトのレベルを上げ、コルネリアの邪神の呪いを解くためにもここを離れるわけにはいかない。
だが、命令されれば従わざるを得ない。寄り子にとって、寄り親の命令は絶対なのだ。覆せるのは王命のみ。
「では、いかがなさいますか?」
「そんなものは無視だ! だが、命令されれば……くそっ!」
「坊ちゃま……」
「せっかく邪神の呪いが、リアの命を助けることができるかもしれないのに!」
コルネリアの病気を治すために離れるわけにはいかないとでも言うか?
バカな! それでは適当な治癒のギフト持ちを派遣されるだけで終わる!
それに、コルネリアの病気が邪神の呪いだとバレてみろ。邪神の呪いはギフトも貰えない人でなしだ。下手をすれば殺されるぞ!
「くそっ! くそっ! くそっ!」
まるでいい手が浮かばない。
なんのための前世の記憶だ! なんのためのゲームの知識だ! コルネリアが救われなければ、そんなものは無価値だ!
オレはなんのために転生したんだ!
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