第5話 ギフト
その日、オレは神の力を得た。
ただいつも通りに寝て起きただけだというのに、今のオレは昨日のオレとはまるで違う存在になり果てたことがわかる。
オレは七歳になりギフトを手に入れたのだ。
「べつに天使の夢などは見なかったのだがな……」
人によっては天使の夢を見たり、神の夢を見たりするらしいが、オレにはそんなことはなかったな。たしかゲームの主人公がそうだった。
これからが勝負だ。
「爺! 爺はいるか!?」
「坊ちゃま、おはようございます。その様子ですと、ギフトを手に入れられたのですな?」
「ああ! 治癒のギフトだ!」
「おお! 治癒のギフトは希少ですぞ! もしかすると、大貴族様からの覚えもめでたくなるのでは?」
「かもしれん。だが、オレはこれでコルネリアの病を治すつもりだ!」
「そ、それは……」
爺が言いよどむのも無理はない。邪神の呪いが回復した話なんて聞いたことが無いからな。
「オレはやるぞ!」
勝算はある。前世のゲームでオレは効率のいいギフトのレベルアップ方法を知っている。この知識さえあれば……!
「さっそく倉庫に行く!」
「坊ちゃま! まずはお着換えください!」
オレは爺の言葉にも止まらず、屋敷の倉庫を目指した。
◇
その部屋は、まるで瘴気のようにも感じるほど昏く澱んでいた。
部屋の中にはたくさんの武器や防具などが無造作に置かれていた。武具の他にも怪しい人形や水晶。手鏡なんかもある。これらはすべて呪われた品物だ。
そして、呪われたアイテムを集めるように指示をしたのはオレだ。
オレはその中の一つを手に取った。作られた当時はさぞ見事だっただろう諸刃の剣だ。今は刀身がヒビ割れ、飾りについていただろう宝石の類もすべて取り外されている。まるで無価値な剣だ。
「坊ちゃま! そこには呪われたアイテムが! 触ってはいけません!」
「まぁ見ていろ」
オレはさっそく自分に与えられた治癒の力を行使する。
治癒のギフトと聞けば誰もが傷を治す力を想像するだろう。だが、それは治癒のギフトの力の一端に過ぎない。
オレが治癒の力を使うと、呪われた剣が白く輝く。
輝くのは予想外だったが、オレの持っている剣は最初にあった不吉さや禍々しさを減じていた。
「これは、いったい……!?」
「治癒の力は、呪いをも回復する。この剣も残り七割ほどだな」
「そんなことが……!?」
オレは更に治癒の力を行使しようと思ったら、こんどはうんともすんともいわなくなった。
「力をすべて使ってしまったようだ……」
すべての力を使って一つも解呪できないとは……。まぁまだレベル1だしこんなものか。
ゲームの時はMPが表示されていたんだが、無いと不便だな。
そして、力をすべて使ってしまった反動か、ひどく体が重い。
「体が重い……」
「聖力切れですな。肩をお貸ししましょう。しばらくベッドで安静していればそのうちよくなります」
聖力切れってなんだ? MPじゃないのか?
そんなことを思いながら、オレは爺によって自室のベッドの上に戻されるのだった。
◇
「リア、お邪魔するよ」
オレは新しくメイドとして雇った子ども、デリアに目配せする。
デリアは特に礼儀作法が優秀だった子だ。オレを見るとデリアは首を小さく横に振り、楚々と礼をした。
予想通りではあったが、コルネリアはギフトを授からなかったようだ。
邪神の呪いに侵された者は、ギフトを与えられず、その命も成人するまで保たない。
神が居るというのなら、いったいコルネリアのなにが気に入らないというのだ!
「お兄、さま……」
コルネリアは起き上がる気力もないのか、横になったままだ。それでも、オレが顔を出すと喜んだように弱弱しい笑顔を見せる。オレは意味もなく泣きそうになった。
「…………」
痩せてしまったな……。まだやつれていると言うほどではないが、コルネリアはほっそりと痩せてしまっていた。体も小さく、まるでコルネリアだけが時間に取り残されているようだった。
だというのに、コルネリアに残された時間だけは刻一刻と減っていく。
こんな不条理があってたまるか!
オレはベッドの傍の椅子に座ると、コルネリアの腕を取る。白く、そして細い腕だ。七歳のオレでも折れてしまいそうなほどに細い。心配になる細さだ。
コルネリアの手を握ると、オレは努めて笑顔を浮かべて話しかける。
「リア、ご飯は食べれたかい?」
「少しだけ……」
「そうか。焦らなくていい。少しずつでも食べよう。黒パンは硬いからなぁ。そのうち白パンを買えるように、がんばってみるよ」
教育を施した子どもたちの売買は、少しずつだが軌道に乗ってきた。白パンが食べられるというのも遠い未来じゃないだろう。
コルネリアと会話しながら、オレは目いっぱいの力を籠めて治癒の力を行使する。
しかし、返ってくるのは治癒の力が押し戻されまったくコルネリアの体に入らない手応えだ。
やはり……。
おそらく、オレの治癒のギフトのレベルが低いせいだろう。
言葉では言い表せないような、とてつもない無力感を感じた。
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