実況！４割打者の新井さん９

これもわりとわたくしの得意技ですわよね？

もうファーストストライクのボールを打ち損じてファウルにしてしまった時点で、バッターとしては厳しくなってしまった。

３球目にチェンジアップを空振りしてしまい、追い込まれた後は、もう食らいつくようなスタンスにしないとやられてしまう。

ポイントを自分に近いところに置いて、速いボールに対応しつつ、スライダーやチェンジアップといったボールになんとかバットに当てていく。

なかなかはっきりとしたボール球は投げてくれず、ゾーンギリギリにきたボールをなんとかカットする光景がしばらく続いた。

「速いボールだ！打って………キャッチャーが追っていきますが、スタンドに切れていきます。ファウルボールになりました。アライもなんとか空振りしないようにというのが精一杯という状態です」

「でも、悪くないですよ。ここまで苦労させずにここまで来ていましたからね。こういう粘りの姿勢が作れるバッターがいませんでしたから、いい働きですよ。これでさらに出塁してくれたら、もう言うことはありませんが……」

カシッ！

「１０球目を打ちました！バットの先！

１、２塁間！ファーストの横、捕れません！セカンドが回り込んで、送球！！んっ、投げられません！手にボールがつきませんでした！記録は内野安打です！！」

ラッキー！

ファーストが足から滑り込みながらも、ミットが届かず、セカンドが深いところまで追いかけ、土と芝の境目で不規則に跳ねたボールを胸元で押さえながらも、喉元で指先がボールに引っ掛からずにこぼした。

俺はヘッスラしようとしていたのを寸でのところで止めて１塁を駆け抜けた。

悔しがりながら、握れなかった右手を虚しく振る。足元に落ちたボールを拾い上げながら、苦笑いでピッチャーに渡すのを見ながら防具を外す。

「当たりは決して良くはありませんでしたが、ファースト、セカンドの焦りを生む打球になったでしょうか」

「これも、簡単に三振してしまってはこうはならないわけですから。１０球投げさせて、必死に当てたボールがそういうコースに飛んでいって初めて可能性が出てくるわけですけど、開幕からアライはこういう当たりが本当に多いですよね」

「さあ、そしてバッターボックスにはバーンズです。昨年、４０発を放ったホームランペースとはいきませんが、打率は３割オーバー。現在の打点王と、バッティングは安定しています」

１塁にランナーがいる状況ならば、バーンズなら上手くなんとかしてくれるのではと期待を寄せていたが、それ以上にピッチャーの投球が安定している。

初球チェンジアップを空振り、ストレートをファウルで追い込まれてしまった。

こうなったら、日本時代からひた隠しにしてきた宝刀を抜かねばなるまい。

「バーンズは追い込まれています。３球目です。………アライが走った！バーンズが打ちます！サードへのゴロ！２塁には投げません。ゆっくりと１塁へボール送りまして、１アウト２塁となりました。ランエンドヒットという形になりました」

「ランナーがザムやヒラヤナギなら分かるんですが、アライでやったのは初めてじゃないですからね。ともかくダブルプレーを防げてラッキーでしたね」

４番クリスタンテだが、彼もまだタイミングを合わせることが出来ず、高めのストレートを見た後に、変化球２つにタイミングが合わず、最後は当てるのが精一杯のショートゴロだった。

俺は反応よく３塁に向かい、滑り込む。

ボールは３塁には来なかった。

よしよし。２アウトだが、３塁まで来たぞ。クラッカーマン、なんとかしてくれ。

しかし、彼も３球で理想的に追い込まれてしまう。だから、４球目がワンバウンドした瞬間、俺はホームを狙った。

もちろん大したことのない後逸ならすぐに戻るつもりだった。

そして大したことのない後逸ではあった。しかし、まだメジャー経験の少ない若手のキャッチャー。足元に転がったボールを視界に入れるのに、少してこずった。

見事なまでに鍛えられた分厚い体がこの時ばかりは仇になったようだった。