別に悪いことではありませんわね。

俺はホームに頭から飛び込む。やっとボールの所在を掴んだキャッチャーが拾い、素手で俺にタッチする。



最後は、砂に埋まった旗を取り合うような格好になった。



「セーフ、セーフ!!」



球審は強く腕を広げ、俺が触ったホームベースの角を2度指差した。



やってしまったと、キャッチャーはガックリと膝を着き、側で見ていた自信の完封がかかっているピッチャーは腕を高く上げて味方ベンチにアピールする。



向こうさんの監督が現れて、両耳に当て物ジェスチャー。



日本の時のようなお弁当注文ではない。




日本でチャレンジ。いわゆるリクエストとなると、バックネットの中に消えていく形になるが、メジャーはバックネット横に機器が乗せられたテーブルが現れ、審判はヘッドホンを装着する。



そして、専門のレフェリーと相談をしながら、最終的なジャッジを下す。



例えば今の状況なら、俺がベースに触れたタイミング。キャッチャーが俺の体に触れたタイミングをジャッジし、コリジョン部分加味した判定を最終決定させる。



ただ1つの客観的な視点とタイミングだけで見るのではく、走者側守備側、俯瞰視点。


3つの方向から見える総合的なジャッジで、アウトセーフだけではなく、誤審や今のようなコリジョンや守備・走塁妨害関連の適用、判定ミスを無くそうという考え方だ。




「セイフ!!」



ここは俺の感覚通りにセイフ。ヘッドホンを1番に外した責任審判おじさんがホームベース方向に向かいながら腕を広げ、シャーロット側の人間は喜んだ。



一方は、まあ判定よりもボールを見失ってしまったのが問題だねと、切り換えている様子。



直後のスライダー。追い込まれているブラッドリーはバットが止まらずに空振り三振。反撃はわたくしのもがいて得た1点のみとなった。




そして……。




カキィ!!



「これは大きな打球になってしまった!レフトのアライが下がる!!フェンス際、入りましたー!!9番グッドウィルのメジャー1号3ランホームランが飛び出しました!先ほどの後逸を取り返す1発になりました!」



フォアボール、フォアボールでランナーが溜まったところで失投がど真ん中。気持ちよく叩かれた打球は、俺が伸ばすグラブの先を楽々と超えていってしまった。



2点ビハインドが5点になる痛恨。敗色濃厚。わたくしはむしろ、やる気が出てきましたわ!



しかし、8回の攻撃は左の豪腕セットアッパーの前に6、7、8番が凡退。



9回も代わった若手の投げっぷりが見事な投球に、ザム、平柳君とあえなく連続三振。



俺も簡単に追い込まれてしまった。




が、先ほどの打席と同じ。




最後まで諦めずに、粘っていく。



気持ちバットを短く持って、様々な球種を思い切り投げ込んでくるピッチャーに押し込まれないように踏ん張っていた。



さっきの打席では、インコース、アウトコースどちらにも、見逃そうもんなら、ストライクを取られてしまうリスクを負ってしまうくらいのきわどいボールだったが、今のピッチャーはゾーンの中にボールが集まってきていた。



追い込んだ後も。



細かいコントロールで狙っていくというよりも、球のキレや勢いでガンガン押し込んでいくという考え方のピッチング。



それがザム君や平柳君の時は上手くいったかもしれないが、3人続けてやられて簡単にゲームセットとはいかない。



時にはど真ん中にボールが来ることもあった、コーナーギリギリに来ることもある。



それらをすべてファウルにした。



きわどいところから曲げてきて空振りになるというボールはお見受けしない。来たボールをすべて打ちにいくというスタンスでいけるので、だいぶ楽だ。



そして8球目。




カキッ!



「いい当たり!3塁線!………ファウル!僅かにファウルでした。入っていれば長打コース。惜しい当たりです」



このファウルを見て、さすがにキャッチャーは危機感を覚えたのか、ピッチャーはこれまでで1番インコースの厳しいところに投げ込んできた。




シュート回転したボールが俺の腹部を襲う。打ちにいこうとしたところから、フンッとお腹を引っ込めるようにしてよける僕。



痛いのは嫌だからね。でも、出塁はしたい。



そのギリギリのギリを攻めたお引っ込め。



通過したボールをキャッチャーが捕球した。しかし、その直前に、ヒュバッと音がしたのだ。



俺はすぐさまポンポンをぽんぽんして球審にアピールする。ボールがカスリマシタヨ!と、デッドボールですよ!と、一目も憚らずアピール。



すると、デービットソン的な球審おじさんは、マスクを外しながら、リオリー?と、怪しんできたので、俺はユニフォームを脱いで、それを見せつける。



ボールが当たった生地のところを横にして。ホラ、生地がこの部分だけ傷んでケバッてるでしょ?と、必死に訴えたのだ。



そんなことをしていると、段々とスタンドからは乾いた笑い声が聞こえて来るようになる。



球審はちょっと信じきれなかったのか、審判仲間を集めて相談。すると、1塁と2塁のおじさんが、まあそうなんじゃない?と、頷いた仕草を取り、球審はデッドボールを宣告。



俺に対して1塁へ向かうように促したのだった。



俺はユニフォームを着直しながらニコニコで1塁に向かうと、ファーストの選手にちょっとからかわれるような仕草のミットでおケツを叩かれたのだった。



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