これが野球のやり方よ。

昨日のデッドボールがありますから、また危ないボールかよと、シャーロットファンからのブーイング。



それに対しメキシカンサウスポーは、そんな様子をまた煽るようにして、生意気そうな態度でマウンドから必要以上に、ホーム方向へと少しニヤニヤしながら近づいてきた。



キャッチャーの選手に向かって、ボールを変えてくれよなんて言っていたようだが、そんなビビリ方でオーバーに避けたりなんてしてどうした?などと、俺に対して嘲笑うような態度だった。



仏の新井として名を馳せている俺もさすがにカチンと来る。



おチンチンの方ではなく。



しかし、そんな怒りが込み上げると同時に、スッと冷静な思考が頭の中に降りてきたら、



それでも、表面上はピッチャーに対して少し睨むようにしながら、強く素振りをして、熱くなっている姿を装う。



お前のボールを木っ端微塵に打ち砕いてやるぜと、強くニギニギとおピンクバットを握り締めるのである。








ビシュッ!






コンッ。





そして言わずもがな、バントである。




ベンチもそれを分かっていたのか、ランナー2人に対してのサインを出していてくれた。



塁上は、ザム、平柳君というチームきっての俊足の2人。



バントに対する反応が良く、しかもボールは魔のトライアングルゾーンに転がった。




ピッチャーとファースト、そしてセカンドの三角形の間のゾーン。連携が難しく、ちょっとでもスムーズさを欠いてしまえば1塁キャンバスはがら空きとなってしまう。



俺のバントの転がし具合からすると、ファーストが打球を逆シングルか素手で処理して、ピッチャーがカバーに入るのが正解というところだったのだが、ピッチャーも打球の処理に向かってしまっていた。



ボールを拾って、俺に対して強めにタッチする計算だったのだろう。そんな姿勢を感じるダッシュでマウンドを降りてきましたからね。




「ガリッ!ガリッ!」



というファーストの声に気づくのが、数歩遅れた。




打球に真っ直ぐ向かっていた足をファーストキャンバスに向け、それでいてキャンバスとは逆方向になるファーストの方を見ながら歩幅を合わせていかないといけない状況になりましたから。



さっき、ビーンボールを勝手に投げて、勝手に煽るという、試合終盤の局面で、アジアンヘイトな行動をしていた方には難しいプレーになったようだ。



ファーストからの送球をグラブに収めるのが精いっぱい。足を伸ばすもキャンバスには届かず、グラブを伸ばすも必殺のヘッスラで逃げた俺のおケツはタッチ出来ず、オールセーフ。



同点のタイムリー内野安打となった。






「おおっ、これも上手いバントだ!!ボールがピッチャーに送られますが、アライはヘッドスライディング!!セーフ!セーフです!シャーロットが同点に追い付きました!」



「やはり日本人はバントが上手いですね。あまりにも見事なタイミングとコースに、オークランドの内野陣は混乱しました。非常に痛い失点の仕方です。ピッチャーのカステージョは冷静さを欠きましたね」



「そしてスコアは同点。一気に勝ち越しといきたい場面で、バーンズが打席に入ります。ここまで打率はアライに次ぐ、3割5分7厘。ホームランも4本放っています」



「狙いはインコースのボールでしょう。これをレフトの頭上目掛けて打っていきたいところです」











コンッ!





「バントです!3塁前!!サートが出て掴みました、1塁へ送球!!………あーっと!ワンバウンドを捕りきれませんでした!オールセーフ!満塁です!!」




まさか。




おバーンズがおバントとは。



もちろん、おサインなんて出ていませんからおビックリしましたよ。



サードの精彩を欠いた送球を誘って出塁したバーンズは対したリアクションも見せずに、クールに足と腕のガードを外した。



満塁となって、チームトップとなる5本のホームランを放っているクリスタンテが右バッターボックス。




初球。





スッ……。




バントの構えをした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る