これは始まってますわね?
見るからに敵いそうもないのに。
意気込んで乱闘を仕掛けた方が、サングラスは激しくずらされ、シャツとズボンはひんむかれ、靴は片方頭の上に乗っけられ。
眩しいほどに鮮やかな赤色をほとばしらせたままの。呆然とした表情。
それを見た子供達は………。
「「アッハハハハハ!!」」
と、大爆笑。
そして俺は心の中でガッツポーズ。ジャパニーズお笑いスタイルがアメリカでも通用した確かな瞬間ですから。
本当は椅子取り合戦の最中、体操着姿で始まり、グラウンドの真ん中で全裸になる正解なんですが、それはまたの機会ということで。
実は、周りから見えないように取り囲んでもらったところで、俺はウェイセカン、ウェイセカンと言って時間を稼いでもらっていたのだ。
脱いだシャツとズボンを今度は共犯である子供達に拾ってもらう。
「ヘイ、アライサン。エクセレントなコメディアンスピリッツだな!」
と、ロンギーに褒めてもらって、仲良く肩を組み、お互いの子供達を集めてみんなで記念撮影もした。
そしていつの間にか周りには、たくさんの人々と、抜け目なくキッチンカーのジェラート屋さんが来ていた。
こんな日本人選手をお願いしますと、ロンギーとお代を半分こして、ピンクだの青だの緑だのという、みんなに美味しいジェラートをご馳走した。
「ところでロンギー。君の子供達はどの子と、どの子?」
「ああ、9人全員さ!」
「なぬ!?……みのりん」
「なに?……いけてあと2人くらいだよ?」
そんな1日だった。
「バティトゥ、レフトフィールダー、ナンバーフォー………トキヒト、アラーイ!!」
カンッ!!
「また1、2塁間だ!!抜けていく!!タイムリーになるか!?俊足のザムが3塁を回っていくー!……バックホームされますが、送球逸れました!!バッターランナーの新井は2塁へ行った!!こっちもセーフになりました!」
ふぅー。よし、よし。
ダイレクトにバックホームされたボールが頭上を通過する時に、高くて、1塁側に逸れると判断してノンストップで2塁を狙う。思っていたよりもきわどいタイミングにはなったがなんとかセーフ。
ベンチのチームメイトとサムライポーズを取る。
カキィ!!
バーンズの打球がサードを強襲する。グラブを弾いたとは思えない勢いで打球がレフトフェンスへ達し、連続タイムリー。彼は25試合目で早くも30打点目。
3勝目を狙うエース、ウェブを援護した。
「この新井とバーンズの2番3番の流れは素晴らしいですね。右へ左へ目が追い付きません」
「去年までなかったシャーロットの形ですね。今までとは違って、ランナーを置いた状態でバーンズに打席が回りますから、ピッチャーへのプレッシャーが違います。ぼんやりしていたら、あっという間に大量失点になってしまいますよ」
「あいたたたた………あのメキシカンサウスポーめ。3安打してるからってぶつけてきやがって………」
試合直後。トレーナーの桜井さんに、最後の打席にもらっちまったデッドボールの手当てをしてもらっていた。
93マイルのボールが左足のふくらはぎですから、なかなかですよ。
きわどいコースを立て続けにボールとされて、イライラしたのは分かっていたけどさ。せめて避けられるところに投げて欲しいですわよね。
足とか頭部付近は本当にダメですわよ。
幸い、骨には以上なく、スプレーしてもらったら普通に走れる感覚が戻ってきたから良かったけど。
せっかくチームがいい感じで来ているのに、怪我は嫌ですからね。
そんなわけで、シャワーも浴びずに、ケアリングルームのベッドにうつ伏せになる。
丁寧に解してもらうようにマッサージと、生葉に薬品を漬け込んだようなマジ湿布を巻き付けてもらい、一応松葉杖を借りてその日は家に帰った。
「おとう、やりかえせ」
「パパ、そいつを許すな」
「時くん。バリ固魂だよ」
というエールを頂いた翌日。俺の意識は昨日デッドボールをぶち当ててきたメキシカンサウスポーにしか向いていなかった。
ですから、最初の3打席で2三振でも仕方がない。
だって、外がすんごい広いんですもの。めっちゃ取るんですもの。
うちのチームに限らず、右バッターは外の際どいところを半歩踏み込むようにして見送ったのをことごとくストライクにされてみの三のオンパレード。
7回裏まで終わって、両チーム合わせて25個の三振という冷えた譲り合い。
スタンドのファンからも、もっとかっとばさんかい!と、お叱りのヤジが飛ぶ中。
カンッ!
ザムがインコースを詰まりながらもセンター前に運び出塁すると、すかさず盗塁し成功してランナー2塁となり………。
コンッ!
ザザザッ!
「セーフ、セーフ!!」
平柳君が3塁線へ見事なセーフティバント。処理を試みたピッチャーが慌てたのか、ボールを握り替え、スムーズに送球出来ずにバッターランナーをアウトにすることが出来なかった。
そして球数が100球を越えたというのもあり、ピッチャー交代する。
ブルペンからヌルッと出てきたのは、昨日デッドボールだったメキシカンサウスポーだった。
ノーアウト1、3塁という絶好の同点、逆転のチャンス。
集中力を極限まで高めて打席に入ると、サウスポーの食い込むようなファストボールがインハイを襲ってきた。
打ちにいく気持ちが強すぎたら、出しかけたバットを手にする手に当たってしまうような投球だったが、身を翻すようにして避けた。
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