実況！４割打者の新井さん９

漢が気合いを入れるとなったら、もちろん赤フンドシよ。

その中でも、かえでをスカウトしてきた女の子は１番の大はしゃぎ。

かえでにハイタッチを求めながらも、興奮が覚めやらない様子だ。

「あなたすごい！！まるで、オジー・スミスみたいなプレーだわ！名前はなんていうの！？」

「カエデ・スミス」

人生初プレーが考えられないトリプルアウト。

その直後とは思えない、すました乗っかりボケ。

紛れもなく、わたくしの子ですわね！

パコンッ！

パコンッ！

「「ワー、ワー！」」

今度はかえでがいるチームが１、２塁のチャンスを作ったところで、２匹目のドジョウ狙い。

年上の女の子がみのりんの横に座ってずっとスイッチをしていた、もみじにバットを渡した。

「……しょーがないなぁ」

もみじは、俺にスイッチをパスすると、首をコキコキ鳴らしながら右バッターボックスに入った。

そして、何処と無く俺と似た構えをして……。

コツン。

バントをした。

しかも１塁線にプッシュ気味のバント。

かわいくないバントである。

ちゃんと走ったらセーフになりそうなものだが、大人げないと思っているのか、テレンコテレンコとゆっくり走り、バットを持ったままタッチアウトになった。

そしてそのまま、バットを器用にくるんと回しながら自身の姉に手渡した。

「もみじちゃん、ナイバン！」

「うん。あとよろしく」

俺とみのりんとかずちゃんは、素晴らしい犠牲の精神をプレーで示したもみじちゃんに、称賛の拍手を送った。

「もみじちゃん、いつの間にあんなバントを習得しましたの？」

「こうなるだろうと。昨日パパの昔の動画を参考にしてイメージしておいたの」

なんて素晴らしい先読みですの！？お小遣いをあげたいですわね！

左打席に入ったかえでが、膝をぐっと落としながらバットを構える。宇都宮のおうちでティーバッティングをして鍛えたその打棒を発揮する時。

フルカウントというこれまた可愛くない状況で、低めのボールを捉えた。メジャーリーガーばりの豪快なフォロースルー。

ボコッ！っと音がすると、ボールは深緑に向かって上がり、唯一の外野である少年の頭上を超えてホームランになるのであった。

かえでがあっという間にベースを１周し、ホームイン。同じチームの少年達とハイタッチを交わすと、ぬうっとすごい体格と髭をした男が現れた。

「遅くなってすまんな！今、誰がホームランを打ったんだ？」

「おとう！あの人は！？」

もみじとかずちゃんともハイタッチをしていたかえでが、魔獣を察したような反応で振り返った。

「ああ、間違いない。シャーロットウイングスの正捕手、ロングフォレストだ！」

彼も俺の存在に気付いた様子だ。

「おおっ！！これはこれは、日本最強打者さんがいるじゃねえの。休日に家族でパークベースボールとはご苦労なこった」

多分そんなことを言っているのだと思われる。俺は、アハハと笑いながら一緒に現れたグラマーな奥様にご挨拶。

「なんだか、うちの子供達を可愛がってくれたみてえじゃねえか。ちっとばっかし打席に立ってくれや」

そう言って彼はボールを受け取り、マウンドに向かう。

どうやらかえでが打った相手は、彼の長男坊だったようで、その第２ラウンドという腹積もりらしい。

のぞむところだと、俺はバットを握って打席に立つ。

なんだなんだ、とにわかに野次馬が集まる。

ロンギーは、パフォーマンスがてらに腕を大きく何回もぐるんぐるんと回した後にボールを放ってきた。

ビュンッと来たボールが俺の顔面に向かって来る。

俺はリアクション芸人の如く、バットを放り投げながら、おケツを天に突き上げるようにして、大げさにひっくり返った。

そして怒りの表情で素早く立ち上がる。

「ファッキュー！！」

俺がそう叫ぶと、ロンギーも当然ブチギレ。

いい大人が取っ組み合いになり、子供達も集結して乱闘が行われる。

しかし、１７１センチの俺と１９０センチのロンギーですから、戦闘力の優劣は明らか。

俺はラバーな地面に倒され………キャッキャッキャッキャッとワチャワチャした後に………。

囲いがはけると、俺がこれまたびっくりの赤フンドシ姿になってしまっていたのだ。

は？