実況!4割打者の新井さん9

ぎん

9部第1話は、かえでにかましてもらいますわ!

遅いボールを引き付けて右へ打てるというのは、俺の大いなる武器だと思っている。



もちろん引っ張っていけるボールではあるのだが、それをしっかりおっつけるところまで待てるのがさらにコンタクト力を上げることに繋がる。



平柳君が強烈な先制パンチをした後に、渋い打球を放って出塁し、中軸に繋げる。これが出来ると、緑の大飛行戦隊。グリーンフェザーと呼ばれる打線の凄みが増す。




バキッ!!




「バーンズも初球だー!!左中間に高く上がっている!!……センター下がって、グラブを伸ばしますが、フェンスダイレクト!!アライは判断がいい!!もう3塁を蹴る!!………ボールは内野に返っただけ!!ホームイーン!!バーンズも初球を叩きました!!シャーロットに2点目が入ります!!」





ズガシッ!!




「これもレフトだー!!ポール際、大きな当たりだ!!………入りましたー!!クリスタンテも初球でした!!痛烈な打球があっという間にスタンドへ!!第3号!!シャーロット、シアトル先発ガルシアから、僅か4球で4得点を奪いました!!」




「「フォー!!!」」



「「イェー!!」」



初回からシャーロットベンチはお祭り騒ぎ、2巡目に入った2回にも、平柳君がセンター前に運び、わたくしの被スーパープレイの後に、バーンズがセンター後方へ2号2ラン。





さらに6番ファーストのアンドリュースと、7番キャッチャーのロンギーにもホームランが飛び出し2桁得点。



5回6失点と打たれたピーターソンを激しく援護して、シアトルとの試合に勝利したのだった。




シャーロットウイングスは、20試合を消化して12勝8敗。大型連勝をかましているミルウォーキーに1ゲーム差と食らいつきながらも、調子を上げてきた地区チャンピオン、アトランタにも1ゲーム差に迫られる2位と、混線模様の前半戦となってきた。






「スリー、トゥー、ワン………アクション!」





「平柳君、今日もシャーロットはいい天気だね!!」



「新井さん!こんな時にはこれですよ、これ!」



「おっ、俺の大好物じゃないかー!!」



「2人とも、新フレイバーなんかもありますよ!!」



「前村君!」



「「それじゃあ、早速………ゴクッ、ゴクッ!」」




「「ぷはーっ!!3人揃ったら、シャーロットソーダ!!」」





おかげさまで日本人トリオとしての名前も売れてきたりする中、地元企業の炭酸飲料のCM撮影をしたりなんかして、今日はお天気のいい休日だから、家族みんなでボール遊びが出来る近くの公園へと出掛けた。




「おとう、早く!公園閉まっちゃう!!」



「大丈夫だって、閉まらんから。そんな急ぐなって」




グローブ片手に、俺の手をグイグイ引っ張っていこうとするかえでを落ち着かせながら公園へ。



緑色の芝生がいっぱいに広がり、真ん中に大きなオブジェと一体化した噴水があるような近隣の住民憩いの場。



かえでがあそこに行きたいと、地面がラバーになっているアクティブエリアと呼ばれる場所に向かって見たら。



シュッ!



パコンッ!!



「オッケー!ゴー、ゴー、ゴー!」



男の子8人。女の子2人のグループがグリップを巻いたプラスチックバットとゴムボールで、2チームに分かれて、ベースボールをして賑やかに遊んでいたのだ。




「ほらー!場所取られちゃったー!うわーん!」



地面にへたりこんで泣き始めるかえで。



これはベースボールマンとして、父親として大事なことを伝える場面である。



「かえで。スポーツは1人でやるものじゃないよ。そこに同じくスポーツを愛する者がいたら、それは仲間という存在だ。みんなで楽しめるのがスポーツの素晴らしいところなのさ」



「………うん」



俺の言葉を聞いて、小さく頷いたかえで。



そんな様子を見ていたのは、輪の中にいた1番年上に見える女の子。



他の子達に声を掛けながら、かえでと俺のところまでやってきた。



「あなたもベースボールが好き?一緒にやる?」




俺たちを日本人と理解し、なるべく簡単な英語でそう話しかけてくれた。



かえでは、俺のシャツ涙を拭いながら、女の子の手を握りながら立ち上がり、輪の中へ入っていった。




私の代わりに頑張ってね。というかんじで、女の子はかえでショートのポジションに配置し、自分はサードの方へと移動した。




ランナーが1、2塁となっているピンチの場面。



お遊びとはいえ、自分の子供が初めてのチームベースボール。感慨深いものがある。



まだ少し目を赤くしていたかえでだったが、どこで覚えて、いつの間にやりとりしたのか、外野のポジショニングを調整させる。


そしてさらに、自分の腕や胸、アゴの辺りを触って、ピッチャーに牽制のサインを出す。



リードする2塁ランナーを後ろからベースカバーを伺う形でプレッシャーを与える中、バッターが打った。




ポコンと音が鳴り、打球はショート左へのライナー。



そのまま腕を伸ばせばノーバウンドでキャッチ出来る打球だったが、4割打者の娘は1歩半後ろに下がって、ワンバウンドでグラブに収めたのだ。



それを見た2塁ランナーは戻りかけたところから再びスタートを切ったが、かえでが2塁を踏んだ後で背中に優しくタッチ。



そしてすぐさま1塁へ鋭くボールを送ってバッターランナーもアウトにした。



トリプルプレー。



若干6歳の起こした鮮やかな三重殺に、一瞬にアクティブエリアは大騒ぎとなった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る