【第40話】EDって何ですか?
スネオが打ったボールは、まっすぐ僕のほうへ飛んできた。
僕はその強烈なサーブを、なんとかブロックして返球した。
いかにタレンテッドといえど、ダメージを負った状態では、思うように体が動かない。
弱々しい僕のボールは、あっけなく阿久野に強打され、1ポイントを失ってしまった。
スネオはしたり顔でいった。
「ゴメン、いい忘れてた。ボクは全小──つまり全国小学生テニス選手権のチャンピオンになったことがあるんだ。わが家はお金だけはたんまりあったから、幼稚園のころからプロの指導を受けさせられていた。でも、べつに好きでやっていたわけじゃないから、小学校を卒業するころには、テニスなんて飽きちゃったよ。バーンアウトってやつ? 中学に上がったら阿久野と出会って、世の中にはテニスなんかより、ずっと面白い遊びがいろいろあることを教わったよ」
「まずいわね」琴音先生が僕の耳元でいった。「いくら阿久野さんがレギュラー選手でも、パートナーが素人ならば勝てると思っていました。ダブルスの実力は、2人の実力の平均値ではなく、実力が劣るほうの能力に引っ張られるものですから」
「考えてみれば、そりゃそうですね。お互いに、弱いほうの選手を狙うわけだから」
「そのとおりです。阿久野さんとスネオさんの実力は、ほぼ同じぐらい。それに対して、こちらはカイトさんが本来の力を発揮できない状況にある。おそらく彼らはカイトさんを集中攻撃してくるでしょう」
「ごめんなさい先生。僕がこんな状態じゃなければ……」
「カイトさんのせいじゃありません。カイトさんに深いダメージを負わせたのは彼らです。許せません」
「でも、どうするんですか?」
「こうなったら……もう……しかたがありません」
さすがの琴音先生も、勝負をあきらめたのだろうか。
「作戦会議はもういいかい? 次は先生のレシーブだよ。いくよ!」
スネオがサーブを打った。
それを受ける、琴音先生の目は真剣だ。
真剣……?
あきらめたはずなのに?
スネオのサーブがコーナーに決まる。
憎らしいほど、いいコースだ。
琴音先生は、これを必死に返球した。
だが、僕と同様に、やはり打ち返すのが精いっぱいで、打ったボールは、前衛の阿久野にとってはチャンスボールになってしまった。
「もらった!」
阿久野がスマッシュの構えに入る。
万事休す。
そう思ったとき。
琴音先生がいきなり叫んだ。
「ED!」
イーディー?
イーディーってなんだ?
その瞬間、まるで金縛りにあったかのように、阿久野がピタリと動かなくなった。
まるで、そこだけ時間が止まったみたいだった。
ボールは阿久野の頭上を超え、点々と転がった。
「ちょっと、何やってんの!? 阿久野さん!?」
スネオの声で、阿久野はハッとわれに返った。
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『テニスなんかにゃ興味ない!』を
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この物語は毎日更新していき、
第50話でいったん完結する予定です。
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